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都会の片隅に咲く草花43(24/2/22記)

ヒメヒオウギの春支度

 ヒメヒオウギ(姫檜扇)は4月から5月にかけてピンク濃淡の花をつけます(写真1)。半耐寒性の球根の花で、フリージアの仲間です。花色は、朱赤、ピンク濃淡、白などがあります。名前に似ず、性質がとても強くこぼれ種でも開花します。

写真1 ヒメヒオウギ     
直径が1 cm ほどの可愛い花を付けます。       
写真2 ヒメヒオウギの芽と直根 
全長 5 cm土の中にあった部分は白い色をしています。

 種は直径が 5mmほどの球形で赤い色をしています。彦根に疎開していたとき、お腹が痛くなるとよく飲まされた漢方薬、赤玉神教丸の赤玉にそっくりです。種がなぜ目立つ赤色なのかは分かりませんが、小鳥に運んでもらうためでしょうか。

 まだ寒い2月のはじめに勢いよく緑色の芽が顔を出します(写真2)。小さな球根とそこから伸びる長い根が目につきます。外気に比べれば暖かい土の中で芽生えに備えていたとは、ヒメヒオウギのしたたかさに脱帽です。

タンポポの春支度

 寒い冬の内にじっくり光合成して根に養分を蓄えるタンポポもなかなかしたたかものです。茎の短いタンポポの葉は地面に這いつくばってロゼット状に繰伸び、冬の弱い日光を取り入れます。ゆっくりとしたペースで光合成された澱粉は根に蓄えられ、春の開花に備えます。

写真3 タンポポのロゼット              写真4 タンポポの根は太く、春に備え養分を蓄えています。

 手足の自由を失った星野富弘は筆を口でくわえて次の詩画を残しています。消化器の定期健診を受けている久富医院の待合室で見つけました。

写真5 星野富弘:詩画タンポポ  
左上には綿帽子がうっすらと描かれています。
写真6 空を飛ぶタンポポの落下傘
( 都会の片隅で咲く草花16 再掲  )

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都会の片隅に咲く草花38(23/9/24記)

 8月も中旬が過ぎると高原では早くも「小さな秋」が訪れます。前回の「日々雑感35」では子供たちに連れられ那須高原に行った話をしました。今回はそのとき見つけた秋の訪れを取り上げます。

<日々雑感35 より>

 別荘に入る道の角に大きな栗の木があります。緑色のイガに覆われた未熟な栗が落ちていました。秋到来の前兆です。

 
写真1 イガ頭の栗

 畦道を通って田んぼに出ると一面の草、草、草田んぼは休耕地になっていました。世界は食糧不足というのにこんなことでいいのかなと独り言。

 数年前までは吾亦紅(われもこう)の群生が見られた場所には一本も見つかりませんでした。その代りに台湾クズの繁茂です(写真2)。吾亦紅はあきらめて戻ろうとしたとき、休耕地の畔に見つけました(写真3,4)。

写真2 台湾クズ
写真3 生い茂った草から頭を出す吾亦紅 写真4 吾亦紅 赤とんぼがよく似合う

 どうして吾亦紅が少なくなったのかnet で調べると、草刈りをしなくなったせいだとありました。納得です。

 吾亦紅の字面は、自分はそんなに紅く見えないが、でも紅いんだぞと自己主張しているように読めます。言い得て妙です。

 細い枝の先にある濃い海老茶色の一塊は小さな花の密集したものです。植物学上はバラ科に属していますが、どこがバラと言いたくなります。密集した花を拡大して個々に見ると5弁花で、バラ科の特徴を備えています。

道草を少々

 台湾クズの茂みの向かいには、田んぼ道を挟んで小型のお地蔵さんが並んでいました(写真5)。像は風化していてかなりの年数が経っています。その昔、疫病除けに村の人たちが立てたのでしょうか。

 一番立派なお地蔵さんを拡大写真で見ると弓と矢を手にしています(写真6)。「災難の御主よ、出てこい」と構えている頼もしい村のお守りさんです。

写真5 仲良く並んだ小さなお地蔵さん。背丈は50センチぐらい。
お地蔵さんの向かいは道を挟んで台湾クズの茂み(写真2)です。
写真6 一番立派なお地蔵さん。弓と矢を手にしています。

 花の話に戻ります。那須といえばリンドウです。朝夕の冷え込みが進むと開花期を迎えます。活火山、那須岳(標高1,915 m、愛称は茶臼岳)のふもと、湯本では酸性土を好むリンドウが自生しています。このタイミングで那須に行く予定はなかったので、花屋でリンドウを買い求め飾りました(写真7)。濃いブルーがさわやかです。

写真7 我が家に飾られたリンドウ

 那須のリンドウについては都会の片隅で咲く草花9同23でも触れました。

今月のカバーフォト ”ピンポンマム”

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都会の片隅に咲く草花35(23/6/26記)

 多田多恵子の近著「ワンダーランド道草」(NHK出版2023)を中心に取り上げます。身近な植物たちの巧みな生き残り戦術を分かりやすく、簡潔にまとめている入門書です。彼女は植物生態学の専門家ですが、在野の研究者のためでしょうか、専門臭のないユーモアのある文章は読む者を飽きさせません。

 冒頭の第1章では「新芽の赤」が取り上げられています。生垣によく見られるカナメモチ(俗称 赤芽)は新芽が赤い常緑樹です。写真1はわがマンションと隣との境に植えられているカナメモチです。

写真1 生垣として植えられているカナメモチ 透きとおるような赤い新芽が美しい(頭の部)。

 葉は太陽の光エネルギーを使って葉緑体で澱粉などを光合成しています。しかし新芽が太陽光の紫外線を受けると葉緑体の遺伝子が壊され、正常な光合成は不可能になります。そこで新芽は赤いサングラスをかけて紫外線をよけています。新芽が赤い色素のアントシアニンで赤く染められているのはそのためです。アントシアニンが紫外線を吸収します。

 注意すると、赤い新芽は多くの植物で見られます。わが家のベランダの主、朝鮮定家葛(つる性の多年草)も新芽は赤いサングラスをかけています(写真2)。写真3は葉の拡大写真です。新芽は成熟するにつれて赤い色素を失い緑色に変わっていきます。この本に出合う以前は新芽の赤色が紫外線よけだとは思いませんでした。

写真2 朝鮮定家葛 
ツル性のため網戸に沿って赤い
新芽が這い上がっています。
写真3 葉の拡大写真

 カナメモチの場合はどうでしょうか。朝鮮定家葛の場合と同様の過程をたどって、カナメモチの新芽も赤から緑に変化していきます(写真4)。

写真4 カナメモチの葉が赤色から緑化していく過程

 都会の片隅で咲く草花 33 で取り上げたドウダンツツジの花芽も赤いサングラスをかけていました。晩秋、真っ赤に染まった葉が落ちると花芽(カガ)と葉芽(ヨウガ)は一緒に赤い苞葉(ホウヨウ)で包まれます(写真5)。多田流で言えば、赤い苞葉は紫外線を避けるためのサングラスです。春が来ると中から鈴のような白い花と若い葉が飛び出します(写真6)。中央にある開花寸前の花は緑色を帯びています。花柄のもとには若い葉がついています。

 都会の片隅で咲く草花 33「2.ドウダンツツジのライフサイクル」を記した時点では赤い苞葉がサングラスだとは気が付きませんでした。すぐれた入門書に出会って初めて赤い苞葉のなぞが解けました。

 写真5 赤い苞葉で包まれたドウダンツツジの花芽と葉芽 写真6 苞葉から顔を出した花と若葉 開花前のつぼみ(写真の中央部分)は薄い緑色をしています。

 この本は第1章 春の道草に続いて、第2章 夏の道草、第3章 秋の道草、第4章 冬の道草、植物学の基礎を解説した道草ガイド(付録)で構成されています。

 付録は、花の役割とつくり、葉の役割とつくり、植物の調べ方(知らない植物に出会ったら?)、植物の名前および学名、とから成り立っています。用語解説、道草を楽しむための持ち物もイラスト付きで紹介されています(写真7)。本書は実用書としても価値があります。

写真7 「道草ワンダーランド」を楽しむための持ちもの

 私たちは四季折々の果物を味合うことのできる恵まれた国に住んでいます。果物と言えば実(ミ)を食べているのだと漠然と考えていますが、いったい実のどの部分を食べているのでしょうか。

第3章「秋の道草 その2 果物のつくり」では、柿、さくらんぼ、リンゴ、いちご等々が取り上げられています。

 予備知識として、花のつくり(写真8)を先ず述べ、それから果物の話に移ります。花のつくりは「ワンダーランド道草」(p 82-83)からの引用です。専門用語をオブラートに包んだ解説は多田流文章の真骨頂です。

 『花は、雄しべ、雌しべ、花弁、萼(ガク)から構成されています。雌しべの基部にあるふくらみが「子房」で、胚珠を包んで守っています。雌しべの柱頭に花粉がついて受精が行われると、子房は「実」に、「胚珠」は「種子」に育ちます。

 一般に動物は雄と雌が別々ですが、植物は雌雄同体が大多数です。自力で動けない植物は、キューピッドが来ない場合の保険として雌雄の器官を同じ株に配置するようになったということでしょう。

 でも、なぜ植物はわざわざ花を咲かせるのでしょう。数を増やすだけなら、雄だの雌だのと面倒なステップを踏まずに、球根とか地下茎で増やしたほうがよほど早くて楽なのに。

 球根とか地下茎で増えた株はすべて親と遺伝的に同一のクローンです。みな同じ性質なので、環境の急変や病気の流行によって全滅の可能性があります。

 一方、花を咲かせて他の株の花粉を受け取ってつくられた種子には、さまざまな遺伝子の組み合わせがあります。だからこそ長い歴史の中で生き残ることができました。いざとなったら自分の花粉で受粉するという抜け道を残しながらも、だから植物は花を咲かせるのです。』

 このような調子で説明されると堅苦しい話もツルッと飲み込んでしまいます。

写真8 花のつくり 果物の実(ミ)は子房が育ったものです。
種(タネ)に育つ部分は胚珠(ハイシュ)です。
リンゴは例外で、雌しべを支えている花の土台部分(花托)
が膨らんだものですが、ここでは触れません。

 図の横長の囲みの部分は読み取りにくいので、取り出してかなを振りました。左側の上から順に列挙します。柱頭(ちゅうとう)、花柱(かちゅう)、子房(しぼう)、胚珠(はいしゅ)、右側に移って上から順に葯(やく)、花糸(かし)、花弁(かべん)、萼片(がくへん)、萼筒(がくとう)です。専門用語のジャングルです。

 果実の話に移ります。私たちは果実のどの部分を食べているのでしょうか。答えは意外にも「果皮」です。果実の皮が膨らんだ部分です。柿を例に説明します(写真9)。

 口の中で柿の種を縦にして強く噛むと二つに割れ、中から葉と葉柄のミ二チュアが現れます。子供のころ経験された方が多いと思います(写真9 左下)。種にはこんな秘密が隠されていたのだと、神妙な気持ちになったのを思い出す人も多いと思います。

 写真9の右側は雌花、左側は実(み)の断面写真です。種(たね)はこげ茶色の硬い皮(種皮)で覆われています。種は3層からなる果皮(内果皮、中果皮、外果皮)で包まれています。中果皮は柔らかな果肉となり、それを鳥や哺乳類が食べ、種を運ばせているのです。こうした実(み)の中で人が食べても美味しいのが果物です。

 果物は動物に種を運ばせる手段だったのです。私たちはそれをちゃっかり頂戴しているというわけです。

 種の周りはゼリー質で包まれています。内果皮です。柿を食べた動物が種を噛み砕く前に喉の奥に滑り込ませるためです。あんぽ柿を食べると種の周りにこのゼリー質がついているのに気づいた方は多いと思います。

写真9 柿の雌花と実 種を包んでいるこげ茶色の硬い皮は種皮。種を包んでいるのが果皮で、内果皮、中果皮、外果皮の三層からなっています。右側にあるのが雌花です。

謝辞

  今回のブログは多田多恵子の近著「ワンダーランド道草」に負うところが大きく、著者に感謝します。写真7-9は本書からの引用です。

余録 その1

素敵な名前の美しい花 3題

 写真10は玉川高島屋の屋上で撮りました。長さが10センチほどもある大型の花です。鳥の頭のような形をしています。南アフリカを中心に分布し、葉が美しく観葉植物として栽培されているようです。どうしてこのような奇妙な形の花を付けるのか不思議です。受粉のため鳥を呼び寄せるためとは考えられません。

 写真11は私たちが住むマンションの管理人室の前に飾られている鷺草です。白い鷺が羽を広げて飛んでいるかのようです。花から長さ3―4センチの緑色の垂れ下がりは、先端が次第に太くなっています。これは距(キョ)と呼ばれ、末端には蜜がたまっています。この鷺草は花好きである管理人の奥さんが球根から1年かけて育てたとお聞きしました。

写真10 Bird of paradise(楽園の鳥)     写真11 鷺 草    

 写真12,13は小型のセントポーリア、フェアリーファウンテン(fairy fountain、妖精の泉)です。1年ほど前、葉挿ししておいたのが育ちました。みるみるうちに葉柄が伸び、その先に小さな白いつぼみがつきました(写真12)。つぼみは泉から飛び散る水滴のように見えます。

fairy fountain(妖精の泉)とはうまく名付けたものです。紫がかった薄いピンク色の八重の花は妖精の衣でしょうか(写真13)。

写真12  開花寸前のFairy fountain写真13 開花したFairy fountain

余録 その2

赤と白の2段のサングラスをかけた朝鮮定家葛

(ページ上部の)写真2,3はわがベランダの朝鮮定家葛ですが、近所の家の玄関への通り道に見事な朝鮮定家葛が植えこまれています(写真14、拡大写真は15)。

 先端の葉芽は赤色ですが、その下の白い若葉を経て、緑色の葉に変わっていきます。あたかも女子学生が夏服に衣替えしているかのようです。白はすべての色の光を反射しますので、赤いサングラスほどではなくても紫外線の強度を緩和しているのでしょうか。

 写真15を眺めると、まず点状の葉緑素が白い葉に生じ、それが徐々に成長していきます。なんとも不思議です。

写真14 赤白緑で彩られた朝鮮定家葛 写真15 左の拡大写真

余録 その3

夏はやっぱりポーチュラカ

 今年買い求めたポーチュラカは大当たりです。直径が3.5センチメートルほどもある色とりどりの大型の花を付けます。夏の終わりまで咲き続けます。

 朝、カーテンを開くと所せましと咲き誇ったポーチュラカが目に飛び込んできます。「お爺さん、元気を少しお分けしましょうか」と声をかけられているような気分になります。

 1日花ですから、一日ごとに花は総入れ替えです。子孫繁栄のためとは言え、消耗するエネルギーは相当なものです。もう少し倹約してもよさそうに思いますが。

写真16 ベランダのハンギングに植えたポーチュラカ
        100万ドルのポーチュラカと勝手に名付けています。
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都会の片隅に咲く草花32

1 オオアラセイトウ(大紫羅欄花)     

(後半) 2 満開の桜

 公園を挟んでマンションの向かいにあった家が解体され、年明けには100坪ほどの更地になりました(写真1)。

写真1   春を迎えた向かいの空き地 芽生えている植物はオオアラセイトウ。よく見ると紫色の花を付けています。いずれも後述参照。

写真2  左 オオアラセイトウの芽生え右 芽生えの拡大写真 

 鉄筋コンクリートの基礎の上に建てられていたため解体は重機(油圧ショベル)により進められました。作業は1ヶ月ほどもかかりました。大きく凸凹になった跡地には外から土が運び込まれ(客土)、ならされました。

 2月に入ると空き地一面に発芽が見られました(写真2左)。寒さはまだ厳しく、春を告げるスギナなどの大方の野草は土の中で眠っている時期でした。芽生えに近づき拡大写真を撮り(写真2右)、アプリ(PictureThis)で検索するとオオアラセイトウ(アブラナ科)と出てきました。漢字ではなぜか「大紫羅欄花」と記されていました。同じアブラナ科に属し、5月ごろに開花する花ダイコンとは別種であることも分かりました。

3月に入ると花を付け始めました(写真3)。紫色の素朴な花で、アブラナ科特有の十文字型です。

写真3 オオアラセイトウの花

 3月も終わりに近づくと跡地はオオアラセイトウの花で一面覆われました(写真4)。その上を花から花へとスジグロシロチョウ(写真5)が戯れる光景は牧歌的です。道理で、この蝶の幼虫はオオアラセイトウを食草としています。

写真4 一斉に咲きだした オオアラセイトウ(3月下旬)

写真5  羽を休めるスジグロシロチロョウ (モンシロチョウに似ていますが羽に黒い筋が通っています。)

 種子は5月から6月ごろに多数つけ、実からはじき出されるとのことです。繁殖力が強く、散布された種子は翌年発芽し、定着するようです。

 もとに戻って、写真1の芽生えは客土に散布されていた種子が発芽したものと思われます。殺風景な空き地を花一面で覆うとは、なんとも粋な自然の計らいです。

sakura

2 満開の桜

 自由が丘の遊歩道は華やいだシーズンを迎えています。桜が満開です(3月25日)。

写真6は以前紹介しました上から見る桜(日々雑感13(21/3/2記))、写真7は同じ樹を道から見上げた桜です。どこから見ても美しいのが桜です。

写真8は桜越しに見る我が住まい(4階)です。桜の時季に限れば鳩小屋もハイシーズンのホテル並みに早変わりです。

         写真6 見下ろす桜(23/3/27) 

 写真7 見上げる桜  写真6と同一樹木、同日に撮影

写真8 我が鳩小屋はハイシーズンのホテルに早変わり

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都会の片隅に咲く草花31

ラナンキュラスエントロピー

はじめに

 表題の「ラナンキュラスとエントロピー」とはまことに奇妙な組み合わせです。エントロピーについてはすぐ後でやや詳しく触れます(日々雑感29)。

 本論に入る前に、エントロピーの大雑把なイメージをつかんでおきます。床の上に秩序よく並べられた積み木を散らかすのは容易です。バラバラの並び方は幾通りもあるからです。

 それに対して、散らかった積み木をもとの状態に戻すことは容易ではありません。戻し方はただ一通りしかないからです。

 バラバラに散らかった状態はエントロピーの大きい状態、秩序よく並べられた状態はエントロピーの小さな状態です。散らかすのは容易で、元に戻すのが困難であるという事実はエントロピー増大の原理と言われています。人が逆らうことのできない経験則です。

 エントロピー増大の究極の姿はすべての秩序が壊れ、バラバラになった状態です。すなわち万物の死です。

 きれいに咲いたルナンキュラスはやがて花びらが散り、散り終わると枯れてしまいます。この様子とエントロピーとの関係を見ていきます。

花の生涯

 赤、黄、白と早春を彩るラナンキュラス(生体)もエントロピー増大の原理に逆らうことはできません。花期が終わると枯れてしまいます。

 原子、分子の秩序だった配列状態である生体は何とかして(負のエントロピーを費やして)、自らのエントロピー増大分を帳消しし、死からまぬがれようとしますが、それはかなわないのです。

ラナンキュラスの秩序状態と無秩序状態

 写真1は満開のラナンキュラスです。100枚ほどもある花弁はぎっしり詰まっています。順序よく並べないと、直系5センチほどの花に100枚もの花弁を収めることはできません。花弁が順序良く詰まったラナンキュラスはエントロピーの低い状態です。水を取り代えたり、涼しいところに置くと花は長持ちし、エントロピーの増大を一時的に抑えることができます。しかしそれも限りがあって、花はやがて色褪せ、散り始めます(写真2)。

  写真1の花弁は秩序よく並んでいますが、並び方は一様ではありません。よく見ると適度に隙間があります。この隙間は秩序の「揺らぎ」といわれています。花弁は大きくなっても「揺らぎ」があるため元の花に収まることができます。

 中央にある比較的大きなすき間には雄しべと雌しべが納まっています。子孫維持に欠かせませない隙間です。

写真1 満開のラナンキュラス 花の直径は5cm ほどです。

写真2 散り始めたラナンキュラス 落ちた花弁の並びは乱れて無秩序です。その分、花全体のエントロピーは増大しています。さらに落花が続くと、花は枯れて死を迎えます。エントロピー増大則の究極の姿です。

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都会の片隅に咲く草花27

(22/10/24 記)

 10月に入ると遊歩道(自由が丘)の金木犀から甘い香りが室内にまで入ってきます。金木犀は「都会の片隅に咲く草花8」でも触れましたが、今回は花芽の段階から落花までを追ってみます。見逃していたことが多くあることに気が付きました。

図1 金木犀 香りのトンネル図2 見事な金木犀ボール

 自由が丘の遊歩道には金木犀の植え込みが数十本あります。10月も半ばを過ぎると左右の金木犀が遊歩道を覆いかぶさるように咲き、香りのトンネルを作ります(図1)。幹に「枝を払わないで下さい」と書きこみのある札を下げた木もあります。枝は大きな手まり状に張り、オレンジ色に染まります(図2)。日中より夕方の方が強く香ります。蛾を呼び寄せるためでしょうか。

 10月初旬には葉の付け根に花芽を付けます(図3)。花芽は黄緑色のガク(顎、漢字はアゴの意)に包まれています。緑色の厚い葉に目を奪われ、よほど注意をしないと花芽は見過ごしてしまいます。

 図4は金木犀の花がガクから顔を出したところ(つぼみ)です。つぼみを支えている花軸(花梗)が伸び、花びらは4方向に裂け、一見4弁花のように見えます。

図3 黄緑色のガクに包まれた花芽  図4 ガクから顔を出したつぼみ(右上)
図5 雄花は二つの雄しべと一つの不完全雌しべを持っています。       図6 雌花(香瑠美亜のブログ、日日是好日より引用)一つの雌しべと二つの小さな雄しべ(?)を持っています。

 図5をよく眺めると黒い点のついた雄しべが対になっています。その対に挟まれるようにして不完全雌しべがわずかに見えます(完全雌しべは図6)。不完全雌しべは実を付けません。図5の花を付けた金木犀は雄株です。

 金木犀の原産地である中国には雄株も雌株もあります。図6は中国の web に upされていた雌株の花(雌花)です。

 雌株は実を付けるため花数が限られますが、雄花は多数の花を付けます。園芸用には花数の多い雄株が重用されるため、私たちが目にする金木犀は雄株が圧倒的です。実がならないので株を増やすには挿し木や接ぎ木が用いられています。

図7 落花の絨毯 図8 遊歩道にある銀木犀 

  開花期間は短く10日ほどで一斉に散り始めます。木の下は橙色に染まった「落花の絨毯」で覆われます(図7)。

 金木犀のセイ(犀)は東南アジアやアフリカにいる大型の動物「犀」(サイ)を指しています。皮膚は分厚く、表皮には縦横に筋が走っています。「可愛い花を付ける金木犀」は「大型で灰色の犀」とは似ても似つきません。

 中国では唐の時代から銀木犀を単に木犀と呼んでいました。犀の外皮に見られる筋模様に似た模様が銀木犀の樹皮に見られるからです(図8の右下の幹)。図9は金木犀の筋模様で、模様がはっきり見えます。

 花ではなく、幹に注目して「木犀」と名付けるセンスは日本人の美意識とはかけ離れています。中国の人は繊細さより粗削りが好みなのでしょうか。

図9 金木犀の幹 犀の表皮に見られるように縦横に筋が入っています。「木犀」と呼ばれるのはそのためです。

田んぼの四季(前回のブログ)補足

図10 稲刈りが終わり、乾燥した那須の田んぼ。写真は息子が撮ってくれました。

 稲刈りが終わると田んぼは水抜きをして土を乾燥させます。水張りと乾燥を繰り返すと土壌にいる病原菌の繁殖が抑えられ、連作が可能となります。これは農家の人たちが長年の経験から得た知恵です。

 前回のブログでは水田がメタンガスの最大発生源であることを見落としていました。温室効果ガスの2.5%が水田からの発生です(朝日新聞、2022/10/2)。水を張った田んぼの土は酸素不足となり、嫌気性のメタン生成菌が活発に活動するからです。発生したメタンガスは稲の根や茎のすき間を通って地上に放出されます。

 そこで考え出されたのが、上で述べた農家の人たちの経験知の活用です。すなわち田んぼの水抜きを一時的に行う「中干し」です。「中干し」により田んぼの土に酸素が供給され、メタン生成菌の活動が抑えられます。メタンガスの発生は半減します。「中干し」は手間や費用をあまりかけずにすむ優れた方法です。農家への普及は今後の課題です。

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都会の片隅に咲く草花23(椿ほか)

21/11/21記)

1.椿

 咲きました、椿の花が。10年ほど前になりますが、植木鉢の古い土に見慣れない芽が出ていました。種をまいた覚えはないのに何だろうかと水やりを続けていると背丈が10年で50 cm になりました。

写真1 実生から育てた椿、10年越しに花を付けました。 ところどころに蕾も見えます。

 厚くて濃い緑の葉から椿だろうと想像していましたが、いつまでも葉ばかりで一向に花芽がつきません。そろそろ処分しようかと考えていたところでした。ところが、それを察知してか今年になって九つも蕾を付けました。やっと顔を出した蕾は葉芽と似ていて半信半疑でしたが、夏を過ぎた頃からふっくらしてきました。ここ数日で蕾の先が赤味をおびはじめました。

 そして今朝です(1115日)、見事に開花しました(写真1)。赤い花びらが青空に映え、ひときわ美しく見えました。10年辛抱した甲斐があったと嬉しくなりました。

 二つ目のつぼみも赤味をおびてきました。九つ全部が咲きそろえばさぞ豪華だろうと今から楽しみです。

2.リンドウ

 一昨年の秋、那須の空き地に咲いていたリンドウを一株、自由が丘の自宅に持ち帰りました(都会の片隅に咲く草花9)。昨年は花を付けませんでしたが、今年は11月に入り気温が下がると一輪だけですが花を付けました(写真2と3)。

 深い青色は秋の空を思い出させ、なんともすがすがしい。

 観察を続けると曇りの日や夜間は花のとじることに気が付きました。花の開閉は10日以上も続いています。昼間に活動する蝶や蜂を誘い、受粉の手助けをさせるためでしょうか。

 花の中央にやや黄色味をおびた小さな五角形が見えます。その頂点に5個の雄しべがびっしりと配置されています。雄しべは寿命を終えると花弁側に寄り、代わって花の中央に雌しべが顔を出します。昆虫が運込んでくる他の株からの雄しべを待ちます写真4)。

 雄しべが雌しべより先に熟す現象は雄性先熟と言われています。自家受粉を避けて他の遺伝子を取り込む植物の知恵です。

 雄性先熟のもう一つの例はトウモロコシです(都会の片隅に咲く草花20)。トウモロコシは竿(幹)の先端部にススキの穂のような花(雄穂)を付けます。それが雄しべです。トウモロコシの実は竿の途中から枝分かれしてつきますが茶色い毛が雌しべ(絹糸)です。雄性先熟のため絹糸は雄しべのあとに顔を出します。

 *オシロイバナは日がかげると開花します(都会の片隅で咲く草花21)。夜間活動する蛾を呼び寄せるためです。

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写真2 リンドウの蕾 写真3 リンドウのハナ* 
        *花の中央に黄色い雄しべが顔を出しています。雌しべはその下に隠れています(写真4参照)。

 

写真4 リンドウ 役目を終えた雄しべと顔を出した雌しべ

3.桜の黄葉、紅葉

 桜はモミジのように一面に色づくことはありません。黄色や赤に染まった葉は順に散っていきます。

写真5 青空に映える桜の枯れ葉 枝には来春にそなえ花芽と葉芽が見られます。写真6参照。

 枝に取り残された枯れ葉は日の光を受けて紅や黄色に輝いています。いまにも落ちそうですが、青空に映えとてもすてきです(写真5)。

 枝には来春にそなえ花芽や葉芽がびっしりとついています。この時期では両者の区別は難しいのですが、芽の先がややとがっているのが葉芽で、ふっくらしているのが花芽です(写真6)。

写真6 拡大写真。先の尖っているのが葉芽、その周りにある
やや丸みを帯びたのが花芽。

 桜の見事な世代交代です。散り際の葉は赤や黄色におしゃれをして、残された短い命を日なたで楽しんでいるかのようです。

 なんだか身につまされます。

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都会の片隅に咲く草花20(続 エノコログサ)

(21/8/13 記)

 前回のブログでイネ科の野草、エノコログサを取り上げました。夏も終わりに近づくとエノコログサの穂は茶色になります。そしていつの間にか枯れ果て、エノコログサの草の生えていたことすら忘れられてしまいます。

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写真1 茶色くなったエノコログサの穂写真2 エノコログサのモミと種

 うす茶色になったエノコログサの穂に実(み)がびっしりついているのを見つけました(写真1)。その穂をつまみ、ほぐすと 1mmほどのモミがパラパラと手のひらに落ちます。それをつぶすとモミから数個の黒い種(0.5mmほど)が出てきます(写真2)。モミの形や色は稲の籾とそっくりです。違いは大きさだけです。エノコログサはイネ科なんだと合点です。

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写真3 毛のついたエノコログサ
の種。束になった毛の先に黒い小
さな種がついています。
写真4 ポロシャツについた毛
の付いた種

 穂をていねいにほぐすと穂から毛のついたまま種が落ちます(写真3)。毛は動物(小鳥?)にくっつき、種を遠くまで運んでもらうためだそうです。毛が子孫繁栄のための手段だとは驚きです。因みにエノコログサの穂を軽くシャツにこすると種が付着しました(写真4)。

 エノコログサと稲は籾が穂にびっしり詰まっているところは似ていますが、稲には毛がありません(写真5)。種を遠くまで運ぶ必要がないからでしょうか。

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写真5 稲の穂 稲の背丈は約1m写真6 トウモロコシ畑
トウモロコシの背丈は約2m

 イネ科の植物にトウモロコシがあります。トウモロコシ(写真7)ってイネ科?と思われる人も多いと思います。実(み)がぎっしり詰まっているところはエノコログサや稲(写真1、4)と似ています。葉の形も似ています。違いはトウモロコシの方が実も葉もサイズの大きいことです。

 エノコログサグサや稲と違って、トウモロコシは茎の先にススキのような雄花が咲きます(写真6)。花粉は一株当たり2000万粒もあるそうです。自株や他の株から飛んでくる花粉を雌しべが確実に受粉するためです。なりふり構わずのばらまき作戦です。

 受粉作戦はそれだけではありません。雌しべ(絹糸)がトウモロコシの先端部に顔を出す前に雄花は咲き出します。雌しべを確実に受粉させるためです。受粉すると雄しべは絹糸の中にある受粉管を通って、芯(穂軸)にある粒に届き受精します。粒は実となります(写真7)。この写真では実(み)は約500粒あります。絹糸も500本あることになりますが数えていません。

 絹糸は下の方から先に伸びますのでトウモロコシの実は下から順につきます。先になるほど実が小さいのはそのためです。

 受粉を終えた絹糸は粒から切れます。トウモロコシの皮(葉身)をむくと付け根の方にある絹糸は簡単に実から離れてしまいます。それに対して未熟な実のある先端部は絹糸がしっかりくっついています(写真7)。

 普段なら料理の前に皮とともにはぎ取ってしまう絹糸ですが、意外な物語が隠されていました。

写真7 トウモロコシ ぎっしり詰まった実は約500粒。毛(絹糸)は雌しべ。頭の先にある毛は出荷時に切り落とされています。実(み)は穂軸の先ほど小粒です。

追記

 コロンブスはアメリカ大陸を発見(1,492年)したとき、アメリカ先住民の栽培していたトウモロコシをヨーロッパに持ち帰りました。16世紀半ばにはトウモロコシの栽培は地中海一体に広がりました。大航海時代の貿易船により瞬く間にトウモロコシは世界中に広がりました。

 室町時代(1579年)には日本にも伝わってきました。当時の日本人は唐から来た新種のもろこし(イネ科の植物)と思い込み、トウ・モロコシと名付けたようです。アメリカ大陸を出発して大西洋、インド洋を回り、はるばる日本にやってきたとは知りませんでした。

謝意 

写真5、6はweb上に公開されていたものを借用しました。トウモロコシの植物学は「アキバ博士の農の知恵」(JA福岡のホムページ)を、追記はWikipedia を参考にしました。

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都会の片隅に咲く草花19(ムクゲ他)

(21/7/23 記)

 青空にむくむくと立ち上がる入道雲、強い日差しを受けた白い道は夏の風物誌です。内田正泰はその光景をはり絵でとらえています(写真1)。田んぼ一面の緑は稲が盛んに澱粉を光合成している証です。澱粉はお米の主成分です。

 こういう風景に接すると疎開先で迎えた8月15日を思い出します。このブログの終わりで触れます。

写真1 内田正泰 はり絵 白い道

 夏になると春を彩った草花に代わり、散歩道は見慣れた野草たちの世界となります。御三家はエノコログサ(写真2、別名ネコジャラシ)、メヒシバ(写真3)、オヒシバ(写真4)です。いずれもイネ科の植物です。イネ科の植物は風媒花のため花弁は退化してなくなっています。種(実)は穂に沿って密集して多数付きます(写真2-4)。イネ科植物のこの特徴を利用して穀物である米や麦が効率的に生産され、私たちの食糧を支えています。

 オヒシバの別名は力草です。地面深くまで根が張っているため引き抜くのに力が要るからです。表面の土が強い日差しで乾燥しても、青々としているのはそのためです。

写真2 エノコログサ
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写真3 メヒシバ写真4 オヒシバ

 イネ科の野草に負けじと盛夏を彩る花木にアオイ科の御三家があります。ムクゲ(写真5)、アオイ(写真6)、フヨウ(写真7)です。花はつぎつぎと咲きますが、個々の花は短命です。朝咲いて夕方にはしぼんでしまいます。花の作りはあっさりしていていかにも夏向きです。

写真5 ムクゲ 色のついた花も
普通に見られます。
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写真6 タチアオイ 写真7 フヨウ

 都会を離れて田舎に行くと、農家の道端に直射日光をものともせず、赤や黄色のカンナが咲いているのを見かけます。赤いカンナと言えば茨木のり子の戦争体験を詠んだ詩が思い出されます。

根府川の海

 
 根府川
 東海道の小駅
 赤いカンナの咲いている駅

 たつぷり栄養のある
 大きな花の向うに
 いつもまっさおな海がひろがっていた

 中尉との恋の話をきかされながら
 友と二人ここを通ったことがあった

 あふれるような青春を
 リュックにつめこみ
 動員令をポケットにゆられていったこともある

 燃えさかる東京をあとに
 ネープルの花の白かったふるさとへ
 たどりつくときも
 あなたは在った

 丈高いカンナの花よ
 おだやかな相模の海よ
 沖に光る波のひとひら
 ああそんなかがやきに似た
 十代の歳月
 風船のように消えた
 無知で純粋で徒労だった歳月
 うしなわれたたった一つの海賊箱

 ほっそりと
 蒼く
  国をだきしめて
 眉をあげていた
 菜ッパ服時代の小さいあたしを
 根府川の海よ
 忘れはしないだろう?

 女の年輪をましながら
 ふたたび私は通過する
 あれから八年
 ひたすらに不敵なこころを育て

 海よ

 あなたのように
 あらぬ方を眺めながら……。

写真8 相模湾を臨む根府川駅

 オレンジ色のカンナが咲いています。遠くに見えるのは真鶴岬。根府川駅は小田原と熱海の間にある小さな駅で、現在は無人駅です。東海道本線に無人駅があるとは・・・。

(この写真はネット上に公開されている画像をコピペしました。)

蛇足「海賊箱」は海賊が宝物をしまっておく、鍵付きの箱です。類似のものに宝石箱があります。


 そうです。8月15日は終戦記念日です。日本は1945年のこの日に無条件降伏しました。戦争の誤りと国民が受けた甚大な被害を記憶に留め、平和の大切さをかみしめる日です。人類滅亡を避けるためには核兵器廃絶と平和の大切さを世界に訴え、それに向かって行動する義務を私たち日本人は負っています。

 TOKYO2020はそのことを訴える絶好の機会だったのに逃してしまいました。

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都会の片隅に咲く草花18(ガクアジサイ)

(21/6/29 記)

 じめじめした梅雨の季節に、さわやかな気分にしてくれるのは真っ青(さお)なアジサイです。球状に花をつけたアジサイ(写真1)が本家のように思われていますが、原種は日本の火山性土壌に自生しているガクアジサイです(写真2)。

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写真1 てまり咲きアジサイ写真2 ガク(額)アジサイ

 ガクアジサイの拡大写真が です。縁をかたどっている花弁は中性花(装飾花)です。中心部分にある繊細な作りは無数の雄しべ(小さな点)と花弁(青色)と雌しべ(花柱)からなっています。花柱(青色)は各花弁の中心部に数個うずもれていますがこの写真では識別できません。子孫を残すためにこれほど多くの雌しべを用意するアジサイのしたたかさに驚かされます。

 ガクアジサイを品種改良したのがセイヨウアジサイで、ほとんどが装飾花で構成されています(写真1)。てまり状に咲きです。

 進化の賜とはいえ、ガクアジサイのような繊細な構造がこの世に存在すること自体がなんとも不思議です。
 アジサイの花や葉を乾燥させたものは漢方薬として知られています。

 意外ですが、甘茶の木はガクアジサイの変種です。その若葉を蒸し、揉み、乾燥させたものを煎ずれば甘茶です。お釈迦様の誕生日をお祝いする花まつりには欠かせません。

写真3 ガクアジサイの拡大写真 縁をかたどる4弁花は中性花(装飾花)。額の中心部にある青色の小さな花は花弁です。花弁は雌しべの守り役で、その中心部に雌しべ(花柱)がうずもれています。この写真では花柱を識別することは困難です。無数にある黄色い点は雄しべです。

蛇足:

 ガクアジサイの英語は lacecap hydrangea 。すき間をあけて配置されている装飾花を「レース(lace)でできた帽子(cap)」とは、うまく名付けたものです。拡大写真3を眺めているとレースの帽子をかぶった貴婦人が飛び出してきそうです。日本名の額縁の額はなんとも味気ありません。

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都会の片隅に咲く草花17(タイサンボクとバラ)

(21/5/31 記)

 1.タイサンボク

 梅雨が近づくと遊歩道の泰山木(タイサンボク)は大きな白い花を付けます(直径約20cm )。常緑の厚い葉は長楕円形で、長さは20cmほどあります。白い花はお互いに距離を置いてポツン、ポツンと咲きます。葉の濃い緑とのコントラストは抜群で、雨の日には特に目立ちます。

 花が大きいため数十メートル離れたわがマンションの4階からも、花を個別に見分けることができます(写真1)。名前から原産地は中国かと思っていましたが、実はアメリカ南東部の原産です。ミシシッピ州では州木と州花に指定されていて「The Magnolia State(マグノリアの州)」という愛称があるほどです。日本に来たのは明治初めで、気候風土が合ったため公園や庭園に植栽され普及しました。

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写真1 遊歩道のタイサンボクの遠景写真2 タイサンボクのつぼみが
カップ状に開いたところ
 写真3 開花したタイサンボクの花

 タイサンボクのつぼみは緑色の苞葉で覆われ、太い筆先のような形をしています。写真2では白いカップ状の花のすぐ上に一つ見えます。苞葉はやがて2つに割れてカップ状の白い花となります。花の外形はモクレンに似ています。それもそのはずタイサンボクはモクレン科に属しています。

 全開した花が写真3です。花自体は6弁花ですが、その外側に同じような形の白い3枚の萼片(がくへん)がありますので、花弁が6枚以上あるように見えます。6弁花の形が多少乱れた感じになります。

 花の中心には雌しべと雄しべがあります。ビー玉が二つ積み重なったような構造をしています。上の方のやや白っぽいのが雌しべ、その下の黄色いのが雄しべです。

 タイサンボクの難点は花期が終わりに近づくと花は白から茶色に変色し、枝に残ることです(写真2の上方)。散り際のよさを愛でる人にとっては不満が残ります。

 日本名の泰山木の「泰」は天下泰平の「泰」で、どっしりとした樹形を表わしています。それに対して漢字の本家である中国では「荷花玉蘭」と記し、荷はハスの花を、玉蘭はハクモクレンを表しています。いずれも花のかたちが似ていることによる命名です。

2.バラづくし

 4月から5月にかけて近所の住宅街を散策する楽しみの一つは、それぞれの家が道に面した中庭に思い思いのバラを咲かせていることです。

 4月上旬に早々と花期を迎えるのがモッコウバラです(写真4)。モッコウバラは棘がありませんがれっきとしたバラです。写真の郵便受けがアクセントになっています。

 玄関口にアーチ状に懸っている赤いバラはウエルカムフラワーの役目を果たしています(写真5)。

 5月に入るとバラは最盛期を迎えます。クリーム色の大輪のバラが道にはみ出している家があるかと思えば(写真6)、小さな中庭で白バラの中に赤バラが一輪という家もあります(写真7)。

 バラが玄関口を覆い尽くすように咲いている家もあります。イヌバラです(写真8)。鋭い棘で木を這い登ります。花の拡大写真が9です。沢山咲く割には花の作りが細かく、八重です。

 散歩で出会う思い思いのバラ、その家にはどんな素敵な人が住んでのだろうかと想像が膨らみます。

  最後に、わがベランダのバラです(写真10)。10年ほど前に買い求めたものです。毎年一か月以上にわたり何十もの花を次々とつける優等生です。挿し木をすれば容易に増やすこともできます。切り花やドライフラワーにして(写真11)食卓を飾ります。

3.コンクリートづくし

 閑静な住宅街の中庭に植栽されているバラを見てきました。これらの写真を見る限り平穏無事な都会生活が思い浮かびます。ところがです、マンションの屋上(9階)から同じ住宅街を鳥瞰すると、バラどころではありません、コンクリートで埋め尽くされた街です(写真12)。

 写真の左側に見える緑の大木はこれまでも触れてきたケヤキです(都会の片隅で咲く草花 116)。右上の連なった緑は東京工業大学のキャンパスにある銀杏並木です。インコのねぐらがあるところです(日々雑感 15)。ケヤキから銀杏並木にかけて細々と連なる緑が遊歩道の桜並木です。大都会では樹木などの生物量に比較してコンクリートの量が圧倒的に多いことが分かります。

写真12 わがマンションの屋上(9階)から東方向を臨む。はるか遠方には品川からお台場にかけての超高層ビル群が見えます。手前の住宅街も遠方のビル群もコンクリートの塊です。樹木などの生物量は微々たるものです。

 読売新聞に『「人新世(じんしんせい)」地球に人類が爪痕』というショッキングな見出しの解説記事がありました(2021年5月10日)。2020年12月9日付のNature誌に発表されたイスラエルの研究によれば、地球上にある人工物(コンクリート、骨材、レンガ、アスファルト、その他(金属・プラスチックなど)の総量は生物量(樹木など)の総量と同程度に達しています(図1)。20年後の人工物は今の倍になると予想されています。

図1 「人新世」と地質時代 (読売新聞 科学部 渡辺洋介による)
6600万年前には巨大隕石の落下にともなう気候変動で、恐竜など多くの生物が絶滅しました。現在は最終氷期が終わった1万1700年前から続く完新世です。人新世が完新世の後続地質時代区分として国際的に認められるかどうかはいまのところはっきりしません。

 人工物がこのように増えると、人類の活動が及ぼす影響は地球全体におよびます。その兆候はすでに地球温暖化、森林破壊、工業化、核実験、パンデミック(感染症の大流行)に見ることができます。この新時代を地質時代の区分に倣って「人新世」と名付けることが提案されています。

 影響の規模が大きいだけに、対応を一歩誤ると人類を含めた生物の絶滅する危険があります。ちょうど6600万年前、巨大隕石の落下により恐竜や多くの生物が絶滅し、中世代から新世代に代わったときのようにです。

 現在は新生代第4紀の完新生で、最終氷河期の終わった1万1700年前から現在に及んでいます(図1)。「人新世」という名称が国際的に認められると完新生の後続地質年代名になります。

 写真12のコンクリ―トづくしは奥沢界隈はもちろんのこと、東京がすでに「人新世」状態に入っていることを示唆しています。中庭のバラは人工物過多への市民のささやかな抵抗なのかもしれません。

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都会の片隅に咲く草花(号外)

(21/5/4 記)

 風薫る5月、自由が丘の遊歩道には次から次へとしゃれた花やありふれた草花が仲良く咲きます。老いた私一人が見るだけでは惜しく、号外を出すことにしました。

1 おしゃれな花たち

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グラディオラスラン

2.普段着の花たち

 ナガミヒナゲシはタネをたくさんつけるせいか、遊歩道のいたるところで見かけます。ケシと言ってもアヘンの成分は含んでいません。

 ハタケニラの葉は薄く細長いため地面を這うように広がっています。一見だらしなさそうに見えますが、雨が降ると元気づきます。同じニラがついていますが、ハナニラは春先に星形の白い花を付けます*

 ハルシオンは初夏に向けて咲きます。白とピンク色を帯びたのが混在して咲きます。

 ヒルガオは夏の花ですが、植え込みの中に早咲きを見つけました。たまたま夕方散歩に出かけたところ、線路わきに満月を思わせるまっ黄の花、キダチマツヨイグサに出会いました。思わずシャッターを押しました。朝にはしぼんでしまうはかない花です。

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ナガミヒナゲシ
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ハタケニラハルシオン 
スギナの林から頭を出したところ
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ヒルガオ 花は小ブリで色白。
咲くにはちと早やすぎたかな。
キダチマツヨイグサ

*ハナニラ(21/3/12 撮影) ハタケニラに比べ、茎は短く、花は平べったく咲きます。そのためか見栄えがします。

3.散歩の小さな隣人、カタバミのオンパレード

 カタバミは、お天気のいい日にはお日様に向かって可愛い小さな花を咲かせます(直径5 mm ほど)。日がかげればつぼみます。開閉は光センサーで調節されています(都会の片隅で咲く草花 14 )。

 葉や茎はシュウ酸を含んでいるため動物が多量に食べると体内のカルシュームイオンと結合して不溶性の結石となります。カタバミにとっては身を守るための化学兵器です。

 カタバミ属の学名 Oxalisu   はシュウ酸(oxalic acid)から来ています。

 下の2枚の写真は都会の道ばたでよく見かけるカタバミです。続く4枚は遊歩道で見つけたカタバミの仲間たちです。イモカタバミやムラサキカタバミは南米が原産地で、遠来の客です。最後から一つ手前のカタバミにはシュウ酸由来のオキザリスが名前についています。

 オオキバナカタバミは都会の片隅に咲く草花14 で取り上げました。

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カタバミ(緑の葉)アカカタバミ(赤い葉)
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イモカタバミムラサキカタバミ
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オキザリス トリアングラシスオオキバナカタバミ

4.詩を一つ

いちりんの花をとって
その中を ごらんなさい
じっと よくみてごらんなさい

花の中に町がある
黄金(きん)にかがやく宮殿がある
人がいく道がある 牧場がある
みんな いいにおいの中で
愛のように ねむっている

ああ なんという美しさ
なんという平和な世界
大自然がつくりだした
こんな小さいものの中にも
みちみちている清らかさ

この花の けだかさを
生まれたままの美しさを
いつまでも 心の中にもって
花のように
私たちは生きよう

      村野四郎

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