Arts, 日々のこと

日々雑感21(21/11/21記)

「見よう見まねの俳句」考

 俳句は申すまでもなく57517文字からなる短詩です。5文字あるいは7文字の日本語は口調よく音を連ねることができます。芭蕉の「古池や 蛙飛び込む 水の音」を口ずさめば明らかです。心に響くものに出会うと素人でも一句ひねりたくなるのが俳句の気安さです。

 私は年のせいかトイレが近くなり、朝6時頃に目が覚めます。東に面した窓(マンションの4階)から空を眺めると遠方の赤から、やや白味を帯びて後濃い青色に変化します。太陽光と空気分子との相互作用による見事なパーフォーマンスです(日々雑感18参照)。見飽きることがありません。

写真1 1113556分、東方向の空を臨む。

 太陽は画面中央のやや右よりから登ります。色彩は遠方の赤色から上空に向かって濃い青色に移っていきます。赤と青の中間領域はうす白く見えます。中間では赤と青が半々の強度になるからです。色彩の段階的移行は空気分子によるレーレイ散乱によります。

 この空を俳句で表せないかと誘惑にかられます。ふと浮かんだのは次の句でした。

 青空に 赤滲ませる 日の出まえ

 散文調だな、これではだめだ。「青空」は季語ではないし、「赤」は言葉に深みがない。そこで、ネットを使って、「俳句 青空」で検索すると出てきました。

 秋天に われがぐんぐん ぐんぐんと 高浜虚子

 澄んだ青空にぐんぐんと引き込まれていく気分を表しています。そうだ、「青空」の代わりに「秋天」にしよう。これで季語も入ります。

 次に「朝焼け」を検索するとありました。

 初冬の旅 朝焼けの 紅濃ゆく 芝原康佳

 「赤」の代わりに「紅」にしよう。出来上がった「見よう見まねの句」は:

 秋天に 紅にじませる 日の出かな 恵

 先人の肩を借りて少しは俳句に近づけたのかなと自画自賛。 

 最後に私の好きな俳句を再掲します。映画監督五所平之助の句です(日々雑感1)。

 生きることは 一筋がよし 寒椿

追記

 二刀流に挑んだ大谷選手、大輪の花を咲かせました。アメリカンリーグのMVP、しかも満票でした。

 写真2は全身が躍動する大谷選手の美しい投球フォームです。中でも肩から指先までの腕の長さが目につきます。身長192 cmという背丈に見合う腕の長さです。

写真2 大谷翔平選手の投球フォーム(朝日デジタル#17G.O.A.T.(The Greatest of All Time))

 すらっとした体のどこに160 km/hの剛速球と143 mの最長飛距離のホームランを可能にする力がこもっているのでしょうか。その背景にある物理を探ってみます(図1)。

 子どものときに棒を振り回した経験がおありでしょうか。棒は先ほど速い速度で回転します(図1)。ここで棒を腕とみなしてみます。破線OAは腕、肩の関節は赤印です。肩を中心に腕を振り回すと腕OAOBに移ります。腕の位置が123と先に行くほど腕の速度はV V V3 と速くなります。

図1 腕の長さと回転速度 

 赤丸は肩の関節を表す。腕OAを一定の回転速度で振り回し位置 OBに来たとします。腕OBは肩関節(赤丸)から123と離れるにしたがって腕の回転速度はV1V2V3 と速くなります。

 長い腕の大谷選手は投げるときの腕の速度、打つときのバットの速度が最高のV3となります。それに対して腕の短い選手はV V に留まります。この差が大谷選手をMVPに導いた要因だと思います

 筋肉の力とか、柔軟な関節の動きとかは長い腕があってこそ初めてその効果が発揮されます。

 時速150 km/h の投手の腕が6.25 cmだけ長くなると160 km/hの球を投げることができます。大谷選手の腕の長さを1 mとしました。計算は次の通りです。

 100cm-100cm×(150/160)= 6.25cm

 野球のテレビ中継で、ピンチになると捕手が投手に腕を振って投げるようにサインをおくる場面に出会います。それは腕を長く伸ばすことにより少しでも早い球を投げるためです。

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都会の片隅に咲く草花23(椿ほか)

21/11/21記)

1.椿

 咲きました、椿の花が。10年ほど前になりますが、植木鉢の古い土に見慣れない芽が出ていました。種をまいた覚えはないのに何だろうかと水やりを続けていると背丈が10年で50 cm になりました。

写真1 実生から育てた椿、10年越しに花を付けました。 ところどころに蕾も見えます。

 厚くて濃い緑の葉から椿だろうと想像していましたが、いつまでも葉ばかりで一向に花芽がつきません。そろそろ処分しようかと考えていたところでした。ところが、それを察知してか今年になって九つも蕾を付けました。やっと顔を出した蕾は葉芽と似ていて半信半疑でしたが、夏を過ぎた頃からふっくらしてきました。ここ数日で蕾の先が赤味をおびはじめました。

 そして今朝です(1115日)、見事に開花しました(写真1)。赤い花びらが青空に映え、ひときわ美しく見えました。10年辛抱した甲斐があったと嬉しくなりました。

 二つ目のつぼみも赤味をおびてきました。九つ全部が咲きそろえばさぞ豪華だろうと今から楽しみです。

2.リンドウ

 一昨年の秋、那須の空き地に咲いていたリンドウを一株、自由が丘の自宅に持ち帰りました(都会の片隅に咲く草花9)。昨年は花を付けませんでしたが、今年は11月に入り気温が下がると一輪だけですが花を付けました(写真2と3)。

 深い青色は秋の空を思い出させ、なんともすがすがしい。

 観察を続けると曇りの日や夜間は花のとじることに気が付きました。花の開閉は10日以上も続いています。昼間に活動する蝶や蜂を誘い、受粉の手助けをさせるためでしょうか。

 花の中央にやや黄色味をおびた小さな五角形が見えます。その頂点に5個の雄しべがびっしりと配置されています。雄しべは寿命を終えると花弁側に寄り、代わって花の中央に雌しべが顔を出します。昆虫が運込んでくる他の株からの雄しべを待ちます写真4)。

 雄しべが雌しべより先に熟す現象は雄性先熟と言われています。自家受粉を避けて他の遺伝子を取り込む植物の知恵です。

 雄性先熟のもう一つの例はトウモロコシです(都会の片隅に咲く草花20)。トウモロコシは竿(幹)の先端部にススキの穂のような花(雄穂)を付けます。それが雄しべです。トウモロコシの実は竿の途中から枝分かれしてつきますが茶色い毛が雌しべ(絹糸)です。雄性先熟のため絹糸は雄しべのあとに顔を出します。

 *オシロイバナは日がかげると開花します(都会の片隅で咲く草花21)。夜間活動する蛾を呼び寄せるためです。

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写真2 リンドウの蕾 写真3 リンドウのハナ* 
        *花の中央に黄色い雄しべが顔を出しています。雌しべはその下に隠れています(写真4参照)。

 

写真4 リンドウ 役目を終えた雄しべと顔を出した雌しべ

3.桜の黄葉、紅葉

 桜はモミジのように一面に色づくことはありません。黄色や赤に染まった葉は順に散っていきます。

写真5 青空に映える桜の枯れ葉 枝には来春にそなえ花芽と葉芽が見られます。写真6参照。

 枝に取り残された枯れ葉は日の光を受けて紅や黄色に輝いています。いまにも落ちそうですが、青空に映えとてもすてきです(写真5)。

 枝には来春にそなえ花芽や葉芽がびっしりとついています。この時期では両者の区別は難しいのですが、芽の先がややとがっているのが葉芽で、ふっくらしているのが花芽です(写真6)。

写真6 拡大写真。先の尖っているのが葉芽、その周りにある
やや丸みを帯びたのが花芽。

 桜の見事な世代交代です。散り際の葉は赤や黄色におしゃれをして、残された短い命を日なたで楽しんでいるかのようです。

 なんだか身につまされます。

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日々雑感20(21/11/04記)

こぼれ話二つ:チーズとコヒーカップ

1.チーズ

 新聞の誤報から新しいチーズが生まれた話しです。

 25年ほど前のことですが、フランスにはこんなにおいしいチーズがあると家内の友人からブルサンをお土産にいただきました。今ではスーパーでも見かけますが、当時の日本ではブルサンを手に入れることは困難でした。ひとさじを口に入れるとチーズの風味とハーブの香りが広がります。これはうまい、さすが美食の国、フランスだと思いました。

 フランスから輸入すると風味や食感が損なわれるためフロマンジェリー ベル社の日本法人ベル ジャポンはよつ葉乳業と契約し、2014年から製造販売を開始しました(写真1)。箱の中には、しゃれたアルミ箔包装のチーズ、ブルサンが入っています。

写真1 フレッシュフレバ―チーズ ブルサン

 箱の裏蓋にはブルサン開発に至る思いがけない物語が載っています。フランス北西部のノルマンディのチーズ職人フランソワ・ブルサンのもとに、ありもしない「ガーリックフレーバーのブルサンチーズ」の問い合わせが殺到しました。1963年のことです。それは新聞社の誤報が原因でした。

 そこは職人、問い合わせに応えようとブルサンはノルマンディー地方の伝統的なチーズをもとに「ブルサン ガーリック&ハーブ」を開発しました。そのおいしさは評判となり、フランスの家庭に欠かせない一品となったとあります。

 あの美味しい「ブルサン」が新聞の誤報から生まれたとは。

2.Jay さんのコヒーカップ

 昨年の10月、那須で開催されていたJay Jagoさんの陶芸個展を見ました。イギリス人のJayさんは益子焼きを学ぶため1983年に来日しましたが、那須の山々が気に入り1992年に自分の窯を那須に作りました。粘土は熊川土(熊川は那珂川の支流)を用いています。釉薬(ユウヤク、上薬)には木(山桜、松、ナラ、クルミなど)を種類別にストーブで燃やし灰釉(カイユウ)の材料にしています。個展では壺や皿、カップなど140点が展示されていました。ガラス質の釉薬がかもし出す、素朴で温かみのある青色に惹かれました。

 本人と会場で話す機会がありました。もともとはイギリスの福祉施設で子供たちに陶芸を教えていましたが、自分の力量に満足できずイタリアの都市バドバ、それから日本の益子で陶芸を学びました。

 陶芸に使っている熊川土は近所の人が「これ粘土じゃないの」と教えてくれたものです。熊川土はシャベルを担いでJayさん自身が掘りにいきます。異物がたくさん混ざっていて扱いにくい土のため、きれいに洗ってビールを飲ませて1年寝かすそうです。灰釉と合わせて焼くと独特の色合いと雰囲気の陶器が出来上がります(灰釉陶器 カイユトウキ)。

 私は家内と自分用にカップを二つ買い求めました(写真2)。毎朝愛用しています。この青色を出すのに3年半かかったと話してくれました。カップの取っ手が厚くて大きく、使いやすいのもお気に入りです。

写真2 Jayさんの青いコヒーカップ

 目指す青色を出すのに繰り返し試み、実用性を重んじるデザインはイギリスの国民性に由来しているように思いました。

 遠出のままならない私を那須まで誘い出してくれたのは息子でした。Jayさんとの出会いはその一コマです。

 ブルサンさんとJayさんという二人の職人気質を知って幸せな気分になりました。

 「Jayさんのコヒーカップ」をまとめるにあたっては、彼の個展で手にした案内「私のやきもの」と「ご来場の皆様へ」、それに「那須焼など地元の土で、ジェイゴさん個展」(下野新聞 2020/10/14 )を参考にしました。

追記

  文化勲章 長嶋選手

 長嶋選手の文化勲章受章が新聞(21/10/27)に大きく報道されました。私は長嶋選手と同年齢の85歳ですが、彼は早生まれのため学年は一級上でした。当時の立教大学は強打者の長嶋選手と下手投げの杉浦投手を抱えていて6大学野球で常勝を誇っていました。私の母校、東大はいつもどん尻でしたが、両大学の試合を神宮球場に何回か見に行きました。

 野球少年であった私は野球の勘どころを多少は心得ているつもりでした。三塁手の長嶋選手はバットに球が当たる寸前に球の来る方向に体が動いているように見えました。バットの動きからボールの転がる方向を察知しているかのようでした。それは動物的感覚としか言いようがありません。長嶋選手の守備は華麗であると言われますが、それを支えているのはこの動物的感覚かと思いました。

 

 長嶋選手は華やかな人生を歩みましたが、その華やかさにさらに花を添えたのが今回の受章です(11月3日)。地味な名選手にノムさんこと、野村克也選手がいます。ノムさんは自分自身と長嶋選手を比べ名言を残しています。「王や長嶋はヒマワリ、俺は月見草」。

 第二次世界大戦中は敵性文化として排除された野球がここまで日本人に愛されるのはどうしてなのか不思議です。野球には打者がヒットを打つか打たないか、投手は狙い球を投げられるかどうか、といった賭け事に似た確率的要素がつきまといます。

 ツーアウトで、逆転ホームランを打てば「すごいなぁ」、逆に打ちそこなえば「そうはうまくいかないよな」とあっさりあきらめることができます。確率的だからです。こんなところが淡白さを好む日本人の美意識をくすぐります。

 野球はもはやアメリカの国技ではなく、日本の国技かと思えるほどです。あっさり勝負がつくという点では国技の相撲とも相通じます。たとえ延長戦や取り直しになっても勝負はあっさりとつきます。お茶漬けサラサラ、ビーフステーキの脂っこさがありません。

日々雑感2を参照

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秋冬の花, 自宅周辺の花, Science, 東京

都会の片隅に咲く草花22(紫御殿ほか)

21/10/22記)

1.紫御殿

 遊歩道にある大きな厚い葉の「紫御殿」は植栽のすき間を這うようにして夏場をしのぎます。もともとはメキシコ原産で、日本に導入されたのは比較的あたらしく 1955年ごろです。この「紫御殿」は放置された鉢植えが野生化したものと思われます。名前負けしないようにと頑張っている姿はいじらしく思います。

 夏も終わりに近づくとピンク色の可愛い花をところどころにつけます(写真1)。その蜜を求めてやってくるのが小型の蜂です。花の近くにくると、いったん静止飛行状態(ホバリング)に入り(写真)、お目当ての花が決まるとそれに止って、雄しべを手繰り寄せ蜜を吸います(写真

写真1 紫御殿とピンクの花

 青い花を咲かせるツユクサの仲間です(都会の片隅に咲く草花3 初夏編)。ツユクサもぽつぽつとしか花を付けません。

写真2 紫御殿への小さき訪問者 蜜の多そうな花を求めて静止飛行中
写真3 花に止まって、蜜を吸う小形の蜂

 

※ ダメモトは覚悟の上ですが、写真2と3の組み合わせを「エプソンフォトグランプリ2021」に応募しました。こういうシャッターチャンスは滅多にないと思ったからです。

2.セイタカアワダチソウ

 セイダカアワダチソウは夏が終わりに近づくと黄色い小花を無数付けます。空き地や線路際、河原などでよく見かけます。写真4は東横線の沿線で撮影しました。群生している中の一株です。写真5は花の拡大写真です。各小花は黄緑色の総苞に包まれ、各総苞には2形態の花(筒状花と舌状花)が複数個抱えられています。その分かりやすい説明図が写真6です。

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写真4 セイタカアワダチソウの花写真5 セイタカアワダチソウの花の拡大写真
写真 セイタカアワダチソウの花の構造

大きな白丸は小花の全体像で、小花は筒状花(左下の小さな白丸)と舌状花(右上の小さな白丸)とからなり立っています。Web上に公開されている画像を引用。「HAYASHI-NO- KO セイダカアワダチソウ」で検索すると引用画面にたどれます。

 セイダカアワダチソウは北アメリカ原産で、切り花用の観賞植物として導入されました。この植物はアレロパシーと呼ばれる化学物質を根から放出し、他の植物の発芽を抑制します。瞬く間に辺りはセイタカアワダチソウばかりになりますが、今度は繁茂し過ぎた根から放出される大量のアレロパシーで自らの繁殖力も抑制されてしまいます。何とも皮肉な現象ですが、共倒れを防ぐ知恵なのかも知れません。

 セイタカアワダチソウは虫媒花のため花粉を飛ばすことはなく、一時疑われた花粉症とは無縁です。それどころか、フラボノイドを含むため炎症を緩和する薬効すらあります。花はハーブティーとして用いられ、若芽はてんぷらとして食べられるようです(食べたことはありませんが)。

 セイダカアワダチソウのハナはブタクサの花と似ているため花粉症の元凶との汚名を着せられました。ブタクサは風媒花のため杉やヒノキと同様花粉をまき散らします。

追記 黄色いオシロイバナ

 前回(都会の片隅に咲く草花21)オシロイバナの生態を取り上げました。白いハナには様々な赤い絞り模様が見られました。今回、セイダカアワダチソウの隣に黄色いオシロイバナの群生を見つけました。黄色いハナに赤い絞り模様が見られます。その美しさにうっとりです。

続 追記 バラ三姉妹

写真8 四季咲きのバラ

 20年ほど前に代官山の花屋さんで処分品として売っていたものです。家内が買い求めました。手入れにしっかり応える孝行娘です。

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