秋冬の花, 自宅周辺の花, 東京, 樹木

都会の片隅に咲く草花29

蔦紅葉と最後の一葉

 前回の「都会の片隅に咲く草花 28」では季語、桜紅葉を取り上げました。今回は季語、蔦紅葉(ツタモミジ)です。ツタの葉はツルに沿って点々と大きな葉をつけます。秋が近づくと葉ごとに個性豊かに色づきます(写真1)。モミジのような華やかさはありませんが控えめの美しさです。大きな葉が細長い葉柄(ハガラ)で支えられているせいか葉は心細そうに見えます。

 私の住んでいるマンションの石垣(ブロック垣?)はツタで覆われています。冬が近づくと葉は落ちてしまい、ブロックに張り巡らされたツルが目立ちます(写真2)。ブロック垣は寒々とした風景になります。この変化を見て、オー・ヘンリーの短編、最後の一葉(the last leaf)を思い出しました。

写真1 色づいた蔦の葉

写真2 葉を落とした蔦のツル

 蔦は華やかさに欠けますが、歌に読まれることのおおい植物です。若葉の時季の「蔦若葉」、青々と茂った姿の「青蔦」、それぞれ春と夏の季語です。色づいた「蔦紅葉」は秋の季語です。

 オー・ヘンリーに誘われ、こんな作り話が頭に浮かびました。

 ”年老いた画家オー・ケイは生きた証として「永遠の一葉(The perpetual leaf)」を描くと心に決めていました。それは人が描いた絵のどの葉よりもリアルでなければならないと。それが次の絵(写真3)です。

年老いた画家オーケイは生きた証として「永遠の一葉(The perpetual leaf)」を描くと心に決めていました。それは人が描いたどの葉よりもリアルでなければならないと。それが次の写真です。

写真3 永遠の一葉

 なる程、本物そっくりだ!自己満足するとオー・ケイはあの世に旅立ってしまいました。”


 駄作のお口直しに、蔦紅葉を詠んだ正岡子規と松尾芭蕉の句を2つ。

    一筋は 戸にはさまれて 蔦紅葉   子規 

    蔦の葉は むかしめきたる 紅葉哉  芭蕉

 厳しい寒さにさらされると桜の葉は鮮やかな赤色を帯びます。枝にしがみつくようにして数枚の葉が残るのみとなります(写真4)。それもやがて地面に舞い降り、有終の美を飾ります(写真5)。蔦紅葉の場合もそうでしたが、「自然は随分芸術家気取りだなぁ」と私はつぶやいてしまいました。

 写真4 桜紅葉 残された数枚の葉   写真5 地面に舞い降り、有終の美を飾る

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Arts, Science, 日々のこと

日々雑感27(22/12/22記)

続 日本の国力は下り坂?

 前回、「似非銀座のにぎやかさ」、「予備校の繁栄」、「国民の負託に応えない国会議員」を取り上げ、日本の国力低下について記しました。今回はさらに衝撃的で、下り坂どころかすでに足元がぐらついていることを述べます。

 私はネットを通してNature、Nature Materials、Nature Physics の目次(contents)に目を通しています(無料)。特にNature Materialsは私の専門分野に近く、研究動向を知りたいからです。が、思ってもみないことに気が付き唖然としました。

1)Nature Materials、21巻、11号、12号(2022年)

 11月号に掲載された論文(articles)の目次はZhu、Zhang、Huang、Liu、Li、Liu、S.Kim,、Bang、S.W.Kim、HaWan ・・・、と中国起源と思われる姓(Surname)のオンパレードでした。中には韓国起源も見られます。これに対して日本人と思われる姓は何んと皆無です。12月号にも同様の傾向が見られます。日本人はゼロです。今や科学技術立国の輝きは雲散霧消してしまったかのようです。

 もう少し詳しく見てみます。東工大の図書館で調べてみました。

a) 第一著者の研究機関を国別に分類

 11月号に掲載された論文10本のうち中国系研究者がUSAで行った研究は4、中国本土が1でした。それ以外の国(韓国、USA、UK、ポルトガル)の研究者による論文数は5でした。

 12月号では中国系7(内訳中国本土1、USA4、シンガポール1,ルクセンブルグ1)、韓国系1(UK)、それ以外の国(USA2、仏1、スイスと独1)は4でした。

 中国系の研究者が世界中の研究機関で活躍していることが分かります。それに対して日本人やヨーロッパ人の影は相対的に薄くなっています。

b) 中国系や韓国の研究者に選ばれない日本の研究機関

 日本の研究機関は中国系や韓国系の優秀な研究者に見放されています。すぐれた日本人の研究指導者が見当たらないためでしょうか、研究施設が貧弱なためでしょうか、それとも海外の研究者を支える制度が整っていないためでしょうか。いずれにしても日本は科学技術一級国とは言えない状態です。

 米国と中国の対立が喧伝されていますが、米国は中国系研究者に活動の場を与えています。研究面でみるかぎり、両国は相互依存の関係にあります。

c) インパクトファクター

 学術雑誌に掲載された論文が1年あたりに引用される回数の平均値(論文当たり)がインパクトファクターです。その分野(今の場合は材料科学)内で持つ当該雑誌の相対的影響力の強さを表しています。

 Nature Materials のインパクトファクターは47.656(2021)と大きく、日本の材料系学術誌Materials Transactionsの1.389(2021-2022)とは段違いです。平均として見た場合、両誌に掲載された論文に質的な差のあることを示しています。

以下中国起源と思われる姓をもつ研究者を中国系と呼びます。同様に韓国系呼ぶことにします。

2)統計に基づく日本の研究力

 Nature Materials、21巻、11号、12号(2022年)のデータから見えた懸念は朝日新聞に報道された各種統計からも読み取ることができます。

a) 文部科学省の「科学技術指標2022」によると「研究力」の目安となる日本の論文数は世界5位です(10月13日)。

b) 引用数が各分野のトップ10%に入る論文数(「注目度」を表す)はG7諸国では最低で、韓国、スペインにも抜かれ12位です(10月13日)。

c) 新分野の研究力指標として新型コロナに関する論文数をみると1位から5位までは米国、英国、中国、インド、イタリアの順で日本は12位です(11月6日)。日本は新分野の研究に取り組む積極性に欠けています

d) 博士号取得者数の推移 日本vs 中国(10月18日)

博士号取得者数は中国で急増していますが、日本は減少傾向にあります。

 日本の研究力再生の鍵は数十年後の未来を見据えて人への投資が行えるのか。研究者が「ワクワク」するような環境が作れるのか、と担当記者藤波優さんは指摘しています。同感です。

3)日本特有の問題

 私は2002年から2005年にかけて横浜市立大学の学長を務めました。ちょうど国公立大学の独立行政法人化が具体化した時期です。

 それからほぼ20年がたちました。この間に国公立大学の研究力は凋落の一途をたどりました。その原因は大学のあり方に関し国民の間でコンセンサスが欠け、改革が迷走したからです。

 独立行政法人化は結局大学教員を公務員の枠から外して、見かけ上公務員数を削減し、予算削減に導くという浅知恵だったのです。国や地方の大学や行政担当者はこの浅知恵に翻弄されました。

 私自身は独立行政法人化法の、研究教育は学長が、予算は理事長が分担するという基本的な考え方に賛成でした。大学のような大きな組織の改革には学長と教員組織、市長と事務局とが二輪となって初めて成果が得られます。

 横浜市立大学の場合、私の力不足もあって私自身は教員と事務局の板挟みになり、足元がすくわれてしまいました。その結果法人化は設置者権限を盾にした事務局の主導で進められました。

 こういう状況は多かれ少なかれ他の大学でも見られました。その結果、日本の大学の研究力は地に落ちてしまったのです。


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秋冬の花, 自宅周辺の花, 東京, 樹木

都会の片隅に咲く草花28

(22/12/1)

 秋を彩る桜紅葉とその周辺

 秋が近づくと木々は様々に色づき始めます。桜紅葉(さくらもみじ)は桜の紅葉を表す季語です。桜は木全体が一斉に色づくことはありません。くすんだ緑や黄ばんだ葉、それに赤らんだ葉が共存します。錦織のような美しさにはっとさせられます(写真1)。

 枝にしっかり支えられていた葉は垂れ下がり、やがて落葉します(写真2)。春にはこぼれんばかりの花を付け、夏には緑輝やく葉桜でした。そのことを思うと一抹の寂しさを感じます。齢のせいでしょうか。

写真1 桜紅葉 一斉に紅葉せ
ず、緑、黄色、紅色の葉が共存  
写真2 落葉寸前の葉 
どの葉も下を向き、 かろうじ
て枝に留まっています。

 写真3は落ち葉で覆われた遊歩道です。桜はやがて葉をすっかり落とし、冬支度に入ります。

 落葉で敷き詰められた小公園では子供たちはコーチの指導を受けてサッカーの練習中です(写真4)。なんとも平和な情景です。ミサイルの飛んでくることのない、つかの間の平和なのでしょうか。

写真3 遊歩道の桜並木と落ち葉  写真4 落ち葉の絨毯でサッカー
の練習に励む子供たち

 タイトルの後半「桜紅葉の周辺」に移ります。都会で見られる木々の色付きはモミジと銀杏が代表格です。写真5は両親の眠っている浄真寺(通称九品仏)の境内で撮ったショットです。

 前者は東京都の天然記念物に指定されている大銀杏です。幹回りは4.4メートル、高さは18メートルもあります。葉は大方落ち黒い幹が目立ちます。根元は黄落した葉で埋め尽くされています。こういう老大木を見ると畏敬の念に駆られます。

 後者は色づき始めたモミジです。一面の紅葉(こうよう)ではありませんが、枝ごとに緑、黄、赤色に染まっている姿も風情があります。桜紅葉とは違った美しさです。

写真5 九品仏の大銀杏 黄落 写真6 モミジの紅葉 上の枝から
下へと色彩のグラデ-ション

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日々のこと, 東京

日々雑感26(22/12/1記)

日本の国力は下り坂?

1.似非 銀座のにぎやかさ

 お天気に誘われ久しぶりに銀座に出かけました(11月22日)。銀座駅からおもて通りに出ると、どのショウウィンドウもクリスマス気分を盛り上げていました。写真1はティファニーのデコレーションです。他にもブルガリ、ルイ・ヴィトン、ウブロ(写真7参照)などなど欧米のファッション関係が目立ちました。

写真1 ティファニーの壁面飾り 
平和のシンボル、鳩で埋め尽くされて   
います。
写真2 伊東屋のステンレスビル
間口は8メートル(kosukety blogによる)。

 和光やミキモトの店構えはさすがですが、飾りつけは欧米の企業に比べてメッセージ性に劣ります。

 多くの老舗は看板だけになっていたり、残っていても建物の間口が狭く見劣りします。日本の経済は活力を失いつつあるのではないかと心配になってきました。

 一例を挙げると、明治37年(1904年)に創業した伊東屋文具店のステンレスビルは間口の大きなティファニーとブルガリの両ビルに挟まれ、貧弱に見えます(写真2)。

 伊藤勝太郎が開店した当時のミニチュアが店内にあります(写真3)。店名は「和漢洋文房具・STATIONERY」、商号は「伊東屋」と「ITOYA」とあります。「和漢洋」には勝太郎の並々ならぬ意図が、そして「STATIONERY」と「ITOYA」からは欧米への強いあこがれが感じられます。しかしながら明治の半ばに英単語「STATIONERY」を理解できた人は何人いたのでしょうか。

 一度も海外に出たことのなかった勝太郎が出店に当たり、店名や商号に横文字を使ったのはその2年前に欧米視察に出かけた渋沢栄一の助けが大きかったようです(Wikipedia : 伊東屋)。

 しかし、伊東屋は万年筆などの筆記用具にこだわるあまり、ワープロなどIT絡みの新分野への展開は見られませんでした。勝太郎の気宇壮大な初心は雲散霧消してしまったかのようです。

写真3 創業当時の伊東屋和漢洋文具店(明治37年(1904年))

2.予備校の繁栄

 自由が丘は東横線と大井町線とが交差していて交通の便がよく、閑静な住宅街に囲まれた安全な街です。最近、大きなfloorの建物が立つと予備校や塾の入ってくる場合が多く見られます。その主たる資金源は小、中、高、浪人生の家庭です。目指す学校に入るために費やす時間と努力は甚大です。その分、感性や独創性を自由に育む機会が失われます。公立、私立を問わず、日本の教育は一体どうなっているのでしょうか。

 中学受験の大手、四谷大塚は12月1日に自由ヶ丘校舎を開校します(写真4)。小学校の1年生から6年生までが対象です。キャッチフレーズは「でてこい、未来のリーダーたち。」です。こういう口触りのいい宣伝にのせられて小学生が入塾します。

写真4 四谷大塚の新校舎(左)  看板の拡大写真(右)

キャッチフレーズは「でてこい、未来のリーダーたち。」

 塾の良否は難関中高校に何人入学させたかで評価されます。塾は難関校の入試を分析し、効率よく回答する手ほどきを教えることになります。本来、未来のリーダーたちに求められる教養や見識の養成は受験一本鎗の勉強からは得られません。

 自由が丘には塾だけでなく大手予備校の駿台や河合塾も立派な校舎を構えています。

 最高水準の英語教育を銘打った、小中高校生対象の塾、J PREPもあります(写真5)。難関校の英語試験にそなえたり、英語圏の大学への入試にそなえたりするための塾です。かなり本格的な英会話を目指しているようです。

 個人的な体験では、日本語で自分の考えをしっかり表現できるのが先決で、その前に英会話を習っても効率が悪いと思います。高校までは従来の勉強法で文法や語彙、そして読み書きをしっかり身につけることです。基礎がしっかりしていれば話す、聞くは必要になってからでも遅くありません。

写真5 英語塾J PREP の建物(左) 道路に面したウインドウ(右)には「Children’s Thesaurus」、「English Grammar」、「World English」など本格的な英語の本が並んでいます。

米国への留学を控え、修士2年のとき半年ほど週3回日米会話学院に通いました。各回2時間ほどですが、教室では英語漬けでした。そこで発音をしっかり教えてもらったことは大いに役立ちました。英語には数多くある母音**やRとLの発音、ヒアリングは徹底的に訓練されました。

 修士課程をおえ、米国の大学院に留学しました。はじめは授業についていくのがやっとでしたが、半年もするとノートをとるのもさほど苦痛でなくなりました。英語で話している夢さへ見るようになりました。

**日本語には母音が5つしかありませんが、数え方にもよりますが複合母音を含めて22もあります。

 予備校や塾での合格一本槍の勉強では「未来のリーダーたち」は育ちません。経済産業省の「未来人材ヴィジョン」(2022年5月)によると「将来の夢を持っている」「自分で国や社会を変えられると思う」「自分の国に解決したい社会課題がある」と感じる日本の若者は他国に比べ圧倒的に少ないのです。小中高生たちの才能を伸し、自信を持たせる学校、それはどのような学校であるのかを国民全体が共有しなければ学校改革は進みません。塾や予備校に任せておくわけにはいかないのです。岸田総理しっかりしてください。

3.国民の負託に応えない国会議員

 国会審議の形骸化に関するインタビュー記事が朝日新聞に取り上げられています(2022年9月17日)。識者は只野雅人(憲法学者)、野中尚人(政治学者)、上西充子(国会パブリックビューイング代表)の3人です。指摘されている問題点はほぼ3人に共通しています。審議の形骸化はそれほど深く国会を蝕んでいるのです。

 議員は国会で「討論と説得」を尽くして合意を形成していくことが求められています。その機会が国会では失われているというのです。その原因は政府が国会に提出する法案を閣議で決定する前に、与党内で事前審査する慣行があるからです。この慣行は自民党の長期政権下で確立された制度で、法律による根拠付けはありません。この慣行のため議員たちの議論する姿は国民の目に届きにくくなっています。国会では多数決のごり押しです。せっかく手にした民主主義が機能不全に陥っています。

 こういう慣行下では仲間の議員を評価する材料にもこと欠き、人材の適材適所は絵に描いた餅となります。

 岸田内閣(閣僚24名)はこの一か月間で3閣僚が辞任する事態になりました(山際大志郎前経済再生担当相、葉梨康弘前法相、寺田稔前総務相)。総理と言えども閣僚の能力や人柄を適切に評価することができなかったからです。

 議員の国会活動が国民の目に届かなければ、議員は選挙の票まとめに奔走することになります。落選すればただの人になってしまうからです。挙句の果ては旧統一教会の甘い誘いに乗せられてしまいます。

終わりに

  私は戦前、戦中、戦後を生きてきた86歳の枯れすすきです。上で述べた3点は枯れすすきのささやきです。一市民が肌で感じ取った警告です。

  元気の出ない話しが続きました。気分転換。ひょうきんなハコフグの表情はいかがでしょうか(写真6)。歯医者さんの待合室にあったナショナル ジオグラフィック(日本版、2021年10月号)に載っていたのをたまたま目にしました。インドネシア沖の夜の海を漂う若いコンゴウフグです。外形はフクロウのようにも見えます。無防備に見えますが粘膜にはフグ毒が含まれています。

 丸みを帯びたお腹には6角形の連なった模様が目に留まります。雑誌には模様の説明はありませんでした。フグのお腹が膨らんで破裂しないよう強化している網目ではないかと勝手に想像しています。魚である証拠に可愛い尾ひれがちょこんとついています。

  写真7はいま日本を喜ばせたり、がっかりさせたりしているサッカーに絡んだ飾りつけです。FIFAワールドカップをサポートしているスイスのファッション企業、ウブロのショウウィンドウです。抜け目がありません。

写真6 コンゴウフグ

写真7 ウブロのサッカー応援飾り

 サッカーボールは6角形と5角形の皮を縫い合わせて丸みを持たせています。丸いフグのお腹にも同じ模様がみられます。サッカーボールと自然のフグとが同じ幾何学を共有しているとは!ユークリッド万歳!

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