(21/5/31 記)
1.タイサンボク
梅雨が近づくと遊歩道の泰山木(タイサンボク)は大きな白い花を付けます(直径約20cm )。常緑の厚い葉は長楕円形で、長さは20cmほどあります。白い花はお互いに距離を置いてポツン、ポツンと咲きます。葉の濃い緑とのコントラストは抜群で、雨の日には特に目立ちます。
花が大きいため数十メートル離れたわがマンションの4階からも、花を個別に見分けることができます(写真1)。名前から原産地は中国かと思っていましたが、実はアメリカ南東部の原産です。ミシシッピ州では州木と州花に指定されていて「The Magnolia State(マグノリアの州)」という愛称があるほどです。日本に来たのは明治初めで、気候風土が合ったため公園や庭園に植栽され普及しました。
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写真1 遊歩道のタイサンボクの遠景 | 写真2 タイサンボクのつぼみが カップ状に開いたところ |
タイサンボクのつぼみは緑色の苞葉で覆われ、太い筆先のような形をしています。写真2では白いカップ状の花のすぐ上に一つ見えます。苞葉はやがて2つに割れてカップ状の白い花となります。花の外形はモクレンに似ています。それもそのはずタイサンボクはモクレン科に属しています。
全開した花が写真3です。花自体は6弁花ですが、その外側に同じような形の白い3枚の萼片(がくへん)がありますので、花弁が6枚以上あるように見えます。6弁花の形が多少乱れた感じになります。
花の中心には雌しべと雄しべがあります。ビー玉が二つ積み重なったような構造をしています。上の方のやや白っぽいのが雌しべ、その下の黄色いのが雄しべです。
タイサンボクの難点は花期が終わりに近づくと花は白から茶色に変色し、枝に残ることです(写真2の上方)。散り際のよさを愛でる人にとっては不満が残ります。
日本名の泰山木の「泰」は天下泰平の「泰」で、どっしりとした樹形を表わしています。それに対して漢字の本家である中国では「荷花玉蘭」と記し、荷はハスの花を、玉蘭はハクモクレンを表しています。いずれも花のかたちが似ていることによる命名です。
2.バラづくし
4月から5月にかけて近所の住宅街を散策する楽しみの一つは、それぞれの家が道に面した中庭に思い思いのバラを咲かせていることです。
4月上旬に早々と花期を迎えるのがモッコウバラです(写真4)。モッコウバラは棘がありませんがれっきとしたバラです。写真の郵便受けがアクセントになっています。
玄関口にアーチ状に懸っている赤いバラはウエルカムフラワーの役目を果たしています(写真5)。
5月に入るとバラは最盛期を迎えます。クリーム色の大輪のバラが道にはみ出している家があるかと思えば(写真6)、小さな中庭で白バラの中に赤バラが一輪という家もあります(写真7)。
バラが玄関口を覆い尽くすように咲いている家もあります。イヌバラです(写真8)。鋭い棘で木を這い登ります。花の拡大写真が9です。沢山咲く割には花の作りが細かく、八重です。
散歩で出会う思い思いのバラ、その家にはどんな素敵な人が住んでのだろうかと想像が膨らみます。
最後に、わがベランダのバラです(写真10)。10年ほど前に買い求めたものです。毎年一か月以上にわたり何十もの花を次々とつける優等生です。挿し木をすれば容易に増やすこともできます。切り花やドライフラワーにして(写真11)食卓を飾ります。
- 写真6 クリーム色の大輪のバラ
- 写真7 白バラに赤バラが一輪
- 写真8 玄関を這い上がるイヌバラ
- 写真9 イヌバラの拡大写真
- 写真10 わがベランダのバラ
- 写真11 食卓上のドライフラワー
3.コンクリートづくし
閑静な住宅街の中庭に植栽されているバラを見てきました。これらの写真を見る限り平穏無事な都会生活が思い浮かびます。ところがです、マンションの屋上(9階)から同じ住宅街を鳥瞰すると、バラどころではありません、コンクリートで埋め尽くされた街です(写真12)。
写真の左側に見える緑の大木はこれまでも触れてきたケヤキです(都会の片隅で咲く草花 1と16)。右上の連なった緑は東京工業大学のキャンパスにある銀杏並木です。インコのねぐらがあるところです(日々雑感 15)。ケヤキから銀杏並木にかけて細々と連なる緑が遊歩道の桜並木です。大都会では樹木などの生物量に比較してコンクリートの量が圧倒的に多いことが分かります。
写真12 わがマンションの屋上(9階)から東方向を臨む。はるか遠方には品川からお台場にかけての超高層ビル群が見えます。手前の住宅街も遠方のビル群もコンクリートの塊です。樹木などの生物量は微々たるものです。
読売新聞に『「人新世(じんしんせい)」地球に人類が爪痕』というショッキングな見出しの解説記事がありました(2021年5月10日)。2020年12月9日付のNature誌に発表されたイスラエルの研究によれば、地球上にある人工物(コンクリート、骨材、レンガ、アスファルト、その他(金属・プラスチックなど)の総量は生物量(樹木など)の総量と同程度に達しています(図1)。20年後の人工物は今の倍になると予想されています。
図1 「人新世」と地質時代 (読売新聞 科学部 渡辺洋介による)
6600万年前には巨大隕石の落下にともなう気候変動で、恐竜など多くの生物が絶滅しました。現在は最終氷期が終わった1万1700年前から続く完新世です。人新世が完新世の後続地質時代区分として国際的に認められるかどうかはいまのところはっきりしません。
人工物がこのように増えると、人類の活動が及ぼす影響は地球全体におよびます。その兆候はすでに地球温暖化、森林破壊、工業化、核実験、パンデミック(感染症の大流行)に見ることができます。この新時代を地質時代の区分に倣って「人新世」と名付けることが提案されています。
影響の規模が大きいだけに、対応を一歩誤ると人類を含めた生物の絶滅する危険があります。ちょうど6600万年前、巨大隕石の落下により恐竜や多くの生物が絶滅し、中世代から新世代に代わったときのようにです。
現在は新生代第4紀の完新生で、最終氷河期の終わった1万1700年前から現在に及んでいます(図1)。「人新世」という名称が国際的に認められると完新生の後続地質年代名になります。
写真12のコンクリ―トづくしは奥沢界隈はもちろんのこと、東京がすでに「人新世」状態に入っていることを示唆しています。中庭のバラは人工物過多への市民のささやかな抵抗なのかもしれません。
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