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都会の片隅に咲く草花45(24/5/2記)

 私が住んでいるマンションの管理人ご夫妻は園芸上手で、育てた四季折々の花をエントランスに置き私たちの目を楽しませてくれます。

 いま、置かれているのは種から育てた、クレマチスです(写真1)。息を飲む美しさです。昨年は一輪しか花をつけなかったとのことです。開花まぎわの花は白く、日がたつにつれ薄紫色になります。

写真1 クレマチス写真2 シンビジューム

 エントランスホールにはシンピジウムが置かれていました(写真2)。管理人さんは花がしぼむまで咲かせることはせず勢いのあるうちに切り取ってしまいます。株が来年の開花に備えるためです。花を切り落とした株は株分けして殖やしていました(写真3,4)。

 中庭にはウキツリボク(浮釣木)の鉢植えがあります(写真5(a))。愛称はチロリアン ランプです。赤いランプがぶら下がっているようにも見えるからでしょうか。

写真3 シンビジウム 生け花写真4 株分けされたシンビジウム
写真5(a) チロリアンランプ    開花した花が左下に見られます写真5(b)  開花寸前のチロリアンランプ

 熟すと中から黄色い傘をさした茶色い雄しべ(?)が飛び出します。なんのためにこのような奇妙な花を咲かせるのが不思議です。

 クレマチスの前は、エントランスにキンレンカが置かれていました。クレマチスに役目を譲った後は中庭で一休みです(写真6(a),(b))中庭は花の老人ホームのようで身につまされますが、華やかさを維持しているのが救いです。

写真6 (a) キンレンカ(橙色)写真6 (b) キンレンカ(黄色

追記

 喜寿のときに家族が贈ってくれたバラスクワイアーが米寿を迎えた今年も大輪の花をつけました(添付写真)。昨年は大胆に剪定しましたが、残された枝から新芽が伸びて見事な花をつけました。「米寿の爺さん頑張れよ」と励ましてくれているように思いました。

 204155日の未来空想新聞(朝日新聞X Panasonic)の見出しに「明日、庭の花のつぼみが咲きそうです。とありました。副題は「何げない日常がトップニュースになる平和な世界の到来でした。

 そうです、私が無事に米寿を迎えることができたのも平和だったからだとつくづく思います。

 前にも触れましたが、映画監督の高畑勲は岩波ブックレット No. 942 「君が戦争を欲しないならば」で『ナンセンスなことに対して「ナンセンス」と言うのです。』と語っています。戦争を防ぐには弱いように見えても高畑監督の警鐘に共鳴する人が一人でも増えることしかないと思います。

🌺 11年目を迎えたバラ、スクワイアー 🌺

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都会の片隅に咲く草花44(24/3/29記)

 自宅マンションに面した小公園の桜がようやく開花しました(写真1)。昨年より1週間遅れです。この4月6日に米寿を迎える私ですが、その頃には満開の桜が祝ってくれるのではないかと楽しみです。

「号外(4月6日)」👈Click

写真追加「藤の花」👈Click

写真1 ようやく開花した桜(330日)。向かいは私の住んでいるマンション

 この時期は木々が芽吹くときでもあります。ベランダ(4階)からは小公園のケヤキの芽吹きが手に取るように観察できます。写真23は芽吹く前と後で撮ったものです。

 ケヤキの芽吹きはどう言うわけか上から始まります。ケヤキが横方向に枝を張らず、上へ、上へと伸びるのはそのためです。若者の成長を象徴しているかのようで勢いを感じます。

写真2 芽吹く前のケヤキ写真3 芽吹いたケヤキ

 春の訪れは我が家の食卓にもやってきました。筍ご飯に、木の芽、それに蕗のトウの天ぷら、ささやかながら春を味わいました(写真4)。

……………………………………………………….

写真4 ある日の我が家の食卓

追補

 4月に入って遊歩道の桜はようやく8分咲きになりました(写真4

写真4 遊歩道の桜

「号外(4月6日)」

★(号外2) 写真追加「藤の花」

小公園にある紅みをおびた藤
道にはみ出さんばかりの藤

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都会の片隅に咲く草花43(24/2/22記)

ヒメヒオウギの春支度

 ヒメヒオウギ(姫檜扇)は4月から5月にかけてピンク濃淡の花をつけます(写真1)。半耐寒性の球根の花で、フリージアの仲間です。花色は、朱赤、ピンク濃淡、白などがあります。名前に似ず、性質がとても強くこぼれ種でも開花します。

写真1 ヒメヒオウギ     
直径が1 cm ほどの可愛い花を付けます。       
写真2 ヒメヒオウギの芽と直根 
全長 5 cm土の中にあった部分は白い色をしています。

 種は直径が 5mmほどの球形で赤い色をしています。彦根に疎開していたとき、お腹が痛くなるとよく飲まされた漢方薬、赤玉神教丸の赤玉にそっくりです。種がなぜ目立つ赤色なのかは分かりませんが、小鳥に運んでもらうためでしょうか。

 まだ寒い2月のはじめに勢いよく緑色の芽が顔を出します(写真2)。小さな球根とそこから伸びる長い根が目につきます。外気に比べれば暖かい土の中で芽生えに備えていたとは、ヒメヒオウギのしたたかさに脱帽です。

タンポポの春支度

 寒い冬の内にじっくり光合成して根に養分を蓄えるタンポポもなかなかしたたかものです。茎の短いタンポポの葉は地面に這いつくばってロゼット状に繰伸び、冬の弱い日光を取り入れます。ゆっくりとしたペースで光合成された澱粉は根に蓄えられ、春の開花に備えます。

写真3 タンポポのロゼット              写真4 タンポポの根は太く、春に備え養分を蓄えています。

 手足の自由を失った星野富弘は筆を口でくわえて次の詩画を残しています。消化器の定期健診を受けている久富医院の待合室で見つけました。

写真5 星野富弘:詩画タンポポ  
左上には綿帽子がうっすらと描かれています。
写真6 空を飛ぶタンポポの落下傘
( 都会の片隅で咲く草花16 再掲  )

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都会の片隅に咲く草花34

 今回は都会の道ばたで見られる雑草を取りあげます。

 道路に敷き詰められた煉瓦と煉瓦の間や舗装道路と縁石の間にあるわずかなすき間を我が家とばかりに独り占めしている雑草です。狭いが故に他の雑草が侵入してくる危険性が抑えられています。悪環境を逆手にとった生存術です。

 以下は自由が丘の道ばたで見られる雑草の代表例です。

1)カタバミ

 カタバミは繁殖力旺盛でいたるところで見られます(写真1)。葉は緑色です。葉が赤いのもあります。アカカタバミです(写真2)。光センサーを備えたハイテック雑草です*。蔓を伸ばして地表に広がります。タネはさやがはじけると1メートル以上も飛び散ります。

 写真1 カタバミ写真2 アカカタバミ

2)ツタバウンラン

 勢力旺盛さではカタバミに引けをとらないのが、ツタバウンランです(写真3)。写真4は花の拡大写真です。花はミニ蘭のようにも見えます。

 蔓性の多年草で、原産は地中海です。大正年間に観賞用としてロックガーデンなどに植えられ、それが逸出野生化したものです。隙間が好きなはずです。

写真3 ツタバウンラン写真4 花の拡大図

3)ツメクサ

 ツメクサは4月から5月にかけて白い花をつけます(写真5)。6月に入ると爪のように尖った肉厚の葉は枯れてしまいますが、こぼれた種はそのまま夏場をしのぎ来春に備えます**

写真5 ツメクサ写真6 タンポポ

4)タンポポ

 タンポポの綿帽子がはじけると、タネの落下傘が風任せの旅に出ます***。道端のわずかなすき間に落ちたタネはやがて芽を出し、花を付けます。が、葉も花も小ぶりです(写真6)。悪環境に順応して子孫を残します。

5)コモチマンネングサ

 本州から九州の道ばたで普通にみられる越年草です。鮮やかな黄色い花を付けます(写真7)。葉の付け根のわき(葉腋)にある、円形で多肉な2対の葉(肉芽)は落ちて芽生えます。コモチと呼ばれる所以です。子孫存続の新戦術です。種子は普通できません。

写真7 コモチマンネングサ

 都会の道ばたの、ちょっとしたすき間を独り占めしている雑草。スペースの狭さに不平も言わず、ささやかな生活に甘んじています。原産地や種(しゅ)の異なるお隣さんであっても、スペース欲しさの戦いを仕掛けることはしません。

 人なら「こんな狭いところで」と文句を言って、隣接地に戦いを仕掛けるかもしれません。言葉は罪なものです。

 最後に、朝日新聞(23/5/21)に掲載された谷川俊太郎(91歳)による書下ろしの詩をどうぞ。

いのち

ある年齢を過ぎると
どこも痛くなくても
体がぎごちない
けつまずいて転んでから
それが分かり
体は自分が草木と
同じく枯れてゆくと知る

人間として社会に参加した
忙(せわ)しない「時間」は
悠久の自然の「時」に
無条件降伏する
落ち葉とともに
大地に帰りたい
変わらぬ夜空のもと

言語で意味を与えられて
人生はもとの生と異なる
己が獣とも魚とも鳥とも違う
生きものなのを
出自を共にしながら
人は誇り
人は恥じる

追記1(K.O.記)

 道ばたで質素に暮らし、平和共存を享受している雑草に恥じない私たちでしょうか。同世代の私(87歳)はこの詩に「そうだ、そうだ」とうなずくばかりです。

追記2(K.O.記)

 岩波の「図書」6月号に「これ」と題された詩が出ていました(谷川俊太郎)。「これ」は大人用おむつを指しています。詩は:

これを身につけるのは
九十年ぶりだから
違和感があるかと思ったら
かえってそこはかとない
懐かしさが蘇ったのは意外だった

とはじまります。

 この詩人はなんと正直な人だろうと思いました。私は詩集「二十億光年の孤独」以来、彼のファンでしたが、晩年のこの詩に出会ってますます彼が好きになりました。

脚注

*  都会の片隅で咲く花(号外 21/5/4)

** 都会の片隅で咲く花3(20年早春~初夏編)

*** 都会の片隅で咲く花16(ケヤキ、ヒメツルソバ、タンポポの綿帽子、バラ)

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都会の片隅に咲く草花33

五葉躑躅(ゴヨウツツジ)<那須> ※ 1.「追記」参照

 ツツジ科のツツジ(サツキ)とドウダンツツジを取り上げます。花といい葉といいこれほど異なる植木が同じ科に属するのは理解に苦しみます(写真1 vs 写真6)。

1.遊歩道のツツジ オンパレード

 自由ヶ丘の遊歩道にはツツジの植え込みが500株近くあります。4月中旬から5月初旬にかけて色とりどりの花を付けます(写真1~3)。

 自由が丘駅近くの100メートルにはベンチがあるため、大型のプランターに植えられています(写真4)。

写真1 ツツジ(ピンク) 写真2 つつじ(赤)
写真3 ツツジ(白) 写真4 プランターのツツジ

追記

写真5 五葉ツツジ

 10年ほど前、那須の別荘に植えた五葉ツツジが大きく育ち、見事な花をつけました。写真5は息子が送ってくれものです。五葉ツツジは那須に自生していて、愛子さまの「お印」です。

2.ドウダンツツジのライフサイクル 

 ドウダンツツジは、遊歩道や公園の植え込みに使われることが多い。季節により一本の木とは思えないほどに表情を変えます。

 白い小さな鈴のような花を付ける早春:写真6、春から秋にかけて生い茂る葉、葉、葉:写真7、鮮やかな海老茶色に染まる秋:写真8、朱色の花芽を残して落葉する冬:写真9

写真6 花を付けたドウダンツツジ 写真7 生い茂るドウダンツツジ
写真8 海老茶色に染まるドウダンツツジ   写真9 朱色の花芽を残してすっかり落葉したドウダンツツジ

 ドウダンツツジ(灯台躑躅)はツツジ科ドウダンツツジ属の植物です。「ドウダン」という奇妙な名は、枝分かれしている様子が昔、夜間の明かりに用いた灯台(結び灯台)の脚部と似ていたため、その「トウダイ」から転じたものと言われています。


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都会の片隅に咲く草花32

1 オオアラセイトウ(大紫羅欄花)     

(後半) 2 満開の桜

 公園を挟んでマンションの向かいにあった家が解体され、年明けには100坪ほどの更地になりました(写真1)。

写真1   春を迎えた向かいの空き地 芽生えている植物はオオアラセイトウ。よく見ると紫色の花を付けています。いずれも後述参照。

写真2  左 オオアラセイトウの芽生え右 芽生えの拡大写真 

 鉄筋コンクリートの基礎の上に建てられていたため解体は重機(油圧ショベル)により進められました。作業は1ヶ月ほどもかかりました。大きく凸凹になった跡地には外から土が運び込まれ(客土)、ならされました。

 2月に入ると空き地一面に発芽が見られました(写真2左)。寒さはまだ厳しく、春を告げるスギナなどの大方の野草は土の中で眠っている時期でした。芽生えに近づき拡大写真を撮り(写真2右)、アプリ(PictureThis)で検索するとオオアラセイトウ(アブラナ科)と出てきました。漢字ではなぜか「大紫羅欄花」と記されていました。同じアブラナ科に属し、5月ごろに開花する花ダイコンとは別種であることも分かりました。

3月に入ると花を付け始めました(写真3)。紫色の素朴な花で、アブラナ科特有の十文字型です。

写真3 オオアラセイトウの花

 3月も終わりに近づくと跡地はオオアラセイトウの花で一面覆われました(写真4)。その上を花から花へとスジグロシロチョウ(写真5)が戯れる光景は牧歌的です。道理で、この蝶の幼虫はオオアラセイトウを食草としています。

写真4 一斉に咲きだした オオアラセイトウ(3月下旬)

写真5  羽を休めるスジグロシロチロョウ (モンシロチョウに似ていますが羽に黒い筋が通っています。)

 種子は5月から6月ごろに多数つけ、実からはじき出されるとのことです。繁殖力が強く、散布された種子は翌年発芽し、定着するようです。

 もとに戻って、写真1の芽生えは客土に散布されていた種子が発芽したものと思われます。殺風景な空き地を花一面で覆うとは、なんとも粋な自然の計らいです。

sakura

2 満開の桜

 自由が丘の遊歩道は華やいだシーズンを迎えています。桜が満開です(3月25日)。

写真6は以前紹介しました上から見る桜(日々雑感13(21/3/2記))、写真7は同じ樹を道から見上げた桜です。どこから見ても美しいのが桜です。

写真8は桜越しに見る我が住まい(4階)です。桜の時季に限れば鳩小屋もハイシーズンのホテル並みに早変わりです。

         写真6 見下ろす桜(23/3/27) 

 写真7 見上げる桜  写真6と同一樹木、同日に撮影

写真8 我が鳩小屋はハイシーズンのホテルに早変わり

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都会の片隅に咲く草花31

ラナンキュラスエントロピー

はじめに

 表題の「ラナンキュラスとエントロピー」とはまことに奇妙な組み合わせです。エントロピーについてはすぐ後でやや詳しく触れます(日々雑感29)。

 本論に入る前に、エントロピーの大雑把なイメージをつかんでおきます。床の上に秩序よく並べられた積み木を散らかすのは容易です。バラバラの並び方は幾通りもあるからです。

 それに対して、散らかった積み木をもとの状態に戻すことは容易ではありません。戻し方はただ一通りしかないからです。

 バラバラに散らかった状態はエントロピーの大きい状態、秩序よく並べられた状態はエントロピーの小さな状態です。散らかすのは容易で、元に戻すのが困難であるという事実はエントロピー増大の原理と言われています。人が逆らうことのできない経験則です。

 エントロピー増大の究極の姿はすべての秩序が壊れ、バラバラになった状態です。すなわち万物の死です。

 きれいに咲いたルナンキュラスはやがて花びらが散り、散り終わると枯れてしまいます。この様子とエントロピーとの関係を見ていきます。

花の生涯

 赤、黄、白と早春を彩るラナンキュラス(生体)もエントロピー増大の原理に逆らうことはできません。花期が終わると枯れてしまいます。

 原子、分子の秩序だった配列状態である生体は何とかして(負のエントロピーを費やして)、自らのエントロピー増大分を帳消しし、死からまぬがれようとしますが、それはかなわないのです。

ラナンキュラスの秩序状態と無秩序状態

 写真1は満開のラナンキュラスです。100枚ほどもある花弁はぎっしり詰まっています。順序よく並べないと、直系5センチほどの花に100枚もの花弁を収めることはできません。花弁が順序良く詰まったラナンキュラスはエントロピーの低い状態です。水を取り代えたり、涼しいところに置くと花は長持ちし、エントロピーの増大を一時的に抑えることができます。しかしそれも限りがあって、花はやがて色褪せ、散り始めます(写真2)。

  写真1の花弁は秩序よく並んでいますが、並び方は一様ではありません。よく見ると適度に隙間があります。この隙間は秩序の「揺らぎ」といわれています。花弁は大きくなっても「揺らぎ」があるため元の花に収まることができます。

 中央にある比較的大きなすき間には雄しべと雌しべが納まっています。子孫維持に欠かせませない隙間です。

写真1 満開のラナンキュラス 花の直径は5cm ほどです。

写真2 散り始めたラナンキュラス 落ちた花弁の並びは乱れて無秩序です。その分、花全体のエントロピーは増大しています。さらに落花が続くと、花は枯れて死を迎えます。エントロピー増大則の究極の姿です。

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都会の片隅に咲く草花17(タイサンボクとバラ)

(21/5/31 記)

 1.タイサンボク

 梅雨が近づくと遊歩道の泰山木(タイサンボク)は大きな白い花を付けます(直径約20cm )。常緑の厚い葉は長楕円形で、長さは20cmほどあります。白い花はお互いに距離を置いてポツン、ポツンと咲きます。葉の濃い緑とのコントラストは抜群で、雨の日には特に目立ちます。

 花が大きいため数十メートル離れたわがマンションの4階からも、花を個別に見分けることができます(写真1)。名前から原産地は中国かと思っていましたが、実はアメリカ南東部の原産です。ミシシッピ州では州木と州花に指定されていて「The Magnolia State(マグノリアの州)」という愛称があるほどです。日本に来たのは明治初めで、気候風土が合ったため公園や庭園に植栽され普及しました。

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写真1 遊歩道のタイサンボクの遠景写真2 タイサンボクのつぼみが
カップ状に開いたところ
 写真3 開花したタイサンボクの花

 タイサンボクのつぼみは緑色の苞葉で覆われ、太い筆先のような形をしています。写真2では白いカップ状の花のすぐ上に一つ見えます。苞葉はやがて2つに割れてカップ状の白い花となります。花の外形はモクレンに似ています。それもそのはずタイサンボクはモクレン科に属しています。

 全開した花が写真3です。花自体は6弁花ですが、その外側に同じような形の白い3枚の萼片(がくへん)がありますので、花弁が6枚以上あるように見えます。6弁花の形が多少乱れた感じになります。

 花の中心には雌しべと雄しべがあります。ビー玉が二つ積み重なったような構造をしています。上の方のやや白っぽいのが雌しべ、その下の黄色いのが雄しべです。

 タイサンボクの難点は花期が終わりに近づくと花は白から茶色に変色し、枝に残ることです(写真2の上方)。散り際のよさを愛でる人にとっては不満が残ります。

 日本名の泰山木の「泰」は天下泰平の「泰」で、どっしりとした樹形を表わしています。それに対して漢字の本家である中国では「荷花玉蘭」と記し、荷はハスの花を、玉蘭はハクモクレンを表しています。いずれも花のかたちが似ていることによる命名です。

2.バラづくし

 4月から5月にかけて近所の住宅街を散策する楽しみの一つは、それぞれの家が道に面した中庭に思い思いのバラを咲かせていることです。

 4月上旬に早々と花期を迎えるのがモッコウバラです(写真4)。モッコウバラは棘がありませんがれっきとしたバラです。写真の郵便受けがアクセントになっています。

 玄関口にアーチ状に懸っている赤いバラはウエルカムフラワーの役目を果たしています(写真5)。

 5月に入るとバラは最盛期を迎えます。クリーム色の大輪のバラが道にはみ出している家があるかと思えば(写真6)、小さな中庭で白バラの中に赤バラが一輪という家もあります(写真7)。

 バラが玄関口を覆い尽くすように咲いている家もあります。イヌバラです(写真8)。鋭い棘で木を這い登ります。花の拡大写真が9です。沢山咲く割には花の作りが細かく、八重です。

 散歩で出会う思い思いのバラ、その家にはどんな素敵な人が住んでのだろうかと想像が膨らみます。

  最後に、わがベランダのバラです(写真10)。10年ほど前に買い求めたものです。毎年一か月以上にわたり何十もの花を次々とつける優等生です。挿し木をすれば容易に増やすこともできます。切り花やドライフラワーにして(写真11)食卓を飾ります。

3.コンクリートづくし

 閑静な住宅街の中庭に植栽されているバラを見てきました。これらの写真を見る限り平穏無事な都会生活が思い浮かびます。ところがです、マンションの屋上(9階)から同じ住宅街を鳥瞰すると、バラどころではありません、コンクリートで埋め尽くされた街です(写真12)。

 写真の左側に見える緑の大木はこれまでも触れてきたケヤキです(都会の片隅で咲く草花 116)。右上の連なった緑は東京工業大学のキャンパスにある銀杏並木です。インコのねぐらがあるところです(日々雑感 15)。ケヤキから銀杏並木にかけて細々と連なる緑が遊歩道の桜並木です。大都会では樹木などの生物量に比較してコンクリートの量が圧倒的に多いことが分かります。

写真12 わがマンションの屋上(9階)から東方向を臨む。はるか遠方には品川からお台場にかけての超高層ビル群が見えます。手前の住宅街も遠方のビル群もコンクリートの塊です。樹木などの生物量は微々たるものです。

 読売新聞に『「人新世(じんしんせい)」地球に人類が爪痕』というショッキングな見出しの解説記事がありました(2021年5月10日)。2020年12月9日付のNature誌に発表されたイスラエルの研究によれば、地球上にある人工物(コンクリート、骨材、レンガ、アスファルト、その他(金属・プラスチックなど)の総量は生物量(樹木など)の総量と同程度に達しています(図1)。20年後の人工物は今の倍になると予想されています。

図1 「人新世」と地質時代 (読売新聞 科学部 渡辺洋介による)
6600万年前には巨大隕石の落下にともなう気候変動で、恐竜など多くの生物が絶滅しました。現在は最終氷期が終わった1万1700年前から続く完新世です。人新世が完新世の後続地質時代区分として国際的に認められるかどうかはいまのところはっきりしません。

 人工物がこのように増えると、人類の活動が及ぼす影響は地球全体におよびます。その兆候はすでに地球温暖化、森林破壊、工業化、核実験、パンデミック(感染症の大流行)に見ることができます。この新時代を地質時代の区分に倣って「人新世」と名付けることが提案されています。

 影響の規模が大きいだけに、対応を一歩誤ると人類を含めた生物の絶滅する危険があります。ちょうど6600万年前、巨大隕石の落下により恐竜や多くの生物が絶滅し、中世代から新世代に代わったときのようにです。

 現在は新生代第4紀の完新生で、最終氷河期の終わった1万1700年前から現在に及んでいます(図1)。「人新世」という名称が国際的に認められると完新生の後続地質年代名になります。

 写真12のコンクリ―トづくしは奥沢界隈はもちろんのこと、東京がすでに「人新世」状態に入っていることを示唆しています。中庭のバラは人工物過多への市民のささやかな抵抗なのかもしれません。

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日々雑感15(21/5/31 記)

インコとさくらんぼ

 自由ヶ丘の遊歩道にはソメイヨシノを中心に約150本の桜並木があります。今年は早々と3月中旬に満開となりました(日々雑感13(21/ 3/23 )。その中に混じって10本ほどあるオオシマザクラが梅雨入りのころに小さなサクランボを付けます(写真1)。

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写真1 オオシマザクラのさくらんぼ 写真2 さくらんぼをついばむ
3羽のインコ(写真4も参照)

 このさくらんぼを目当てにワカケホンセイインコ(輪掛本青鸚哥)が遊歩道にやってきます(写真2)。1キロメートルほど離れた東京工業大学に大群(1000羽近く?)のねぐらがあり、そこから飛んできます。羽は薄緑色で葉桜と紛らわしく、保護色になっています。写真2には3羽写っています。インコは数羽で群れをつくり、ピーッ、ピーッと鋭い鳴き声で連絡を取り合いさくらんぼをついばみます。器用に吐き出された種は路上に散らばっています(写真3)。

 もともとペットとして飼われていたインコが逃げ出し、寒さに強いこともあり1960年頃から関東を中心に野生化したとのことです。わが家も娘が小学生のころ飼っていたインコが飲み水を取り替えるすきに逃げ出しました。天敵(カラスや鷹)の少ない都会の公園や大学のキャンパスにある高い木を恰好のねぐらにしています。

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写真3 インコの吐き出した
さくらんぼの種
写真4 ワカケホンセイインコ
(インコ生活〜飼い方・育て方の
総合情報サイトによる)

 不思議に思うのはさくらんぼのシーズンをインコはどのようにして察知しているかです。「梅雨入りだ、そろそろさくらんぼのシーズンだなぁ」と気づき、やって来るとは思えません。好奇心旺盛な一羽がたまたまさくらんぼを見つけ、仲間に知らせるのでしょうか。

 そう言えば、先日(21/5/23)の NHK のテレビ番組「ダーウィンが来た!」で「小鳥たちが餌のあり場所や天敵の来襲などを鳴き声で合図し合っている」という研究が紹介されていました。

 参考までに、ワカケホンセイインコのもう少しはっきりした姿を写真5に掲げます。自由が丘でも電線に止まっているのをよく見かけます。いかにもペットらしい色合いの鳥ですが、本来の生息地はインド南部やスリランカです。

追記:山村暮鳥と雲

 わがマンションの4階の窓から東方向を眺めると、梅雨の合間に広がった青空に綿雲がゆったりと流れていました(写真5)。中学校で学んだ山村暮鳥の詩を思い出しました。

 おうい 雲よ
 ゆうゆうと
 ばかに のんきそうぢやないか
 どこまで ゆくんだ
 ずつと 磐城平のほうまで ゆくんか
写真5 ゆったりと流れる綿雲

 暮鳥は磐城平方面に何か特別な思いがあったのではないかとずうっと思っていました。『昔読んだ「日本の名詩を読みかえす」』(高橋順子 編・解説(いそっぷ社、2004))に次のような記述を見つけました。

 群馬県の農家の長男として生まれました。生家の複雑な家庭事情のため、身寄りをもとめて転々とし、小学校高等科を中退してからは半ば放浪しながら、さまざまな職につきました。24歳のとき、神学校を卒業、伝道師となり、東北、北関東各地に赴任しました(磐城平はそこにあります)。

 病気が悪化して、大喀血をし、教会も退きました。詩集「雲」は暮鳥没後に刊行されました。

 このような体験をもとに、「磐城平」の方まで行くんかと暮鳥は問い掛けています。のんきそうに見える雲ではなく、詩人にとってはつらい思いを呼び覚ます雲だったに違いありません。そのつらい思いが吹っ切れたときにこの無邪気とも思える詩が誕生したように思います。

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都会の片隅に咲く草花(号外)

(21/5/4 記)

 風薫る5月、自由が丘の遊歩道には次から次へとしゃれた花やありふれた草花が仲良く咲きます。老いた私一人が見るだけでは惜しく、号外を出すことにしました。

1 おしゃれな花たち

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グラディオラスラン

2.普段着の花たち

 ナガミヒナゲシはタネをたくさんつけるせいか、遊歩道のいたるところで見かけます。ケシと言ってもアヘンの成分は含んでいません。

 ハタケニラの葉は薄く細長いため地面を這うように広がっています。一見だらしなさそうに見えますが、雨が降ると元気づきます。同じニラがついていますが、ハナニラは春先に星形の白い花を付けます*

 ハルシオンは初夏に向けて咲きます。白とピンク色を帯びたのが混在して咲きます。

 ヒルガオは夏の花ですが、植え込みの中に早咲きを見つけました。たまたま夕方散歩に出かけたところ、線路わきに満月を思わせるまっ黄の花、キダチマツヨイグサに出会いました。思わずシャッターを押しました。朝にはしぼんでしまうはかない花です。

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ナガミヒナゲシ
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ハタケニラハルシオン 
スギナの林から頭を出したところ
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ヒルガオ 花は小ブリで色白。
咲くにはちと早やすぎたかな。
キダチマツヨイグサ

*ハナニラ(21/3/12 撮影) ハタケニラに比べ、茎は短く、花は平べったく咲きます。そのためか見栄えがします。

3.散歩の小さな隣人、カタバミのオンパレード

 カタバミは、お天気のいい日にはお日様に向かって可愛い小さな花を咲かせます(直径5 mm ほど)。日がかげればつぼみます。開閉は光センサーで調節されています(都会の片隅で咲く草花 14 )。

 葉や茎はシュウ酸を含んでいるため動物が多量に食べると体内のカルシュームイオンと結合して不溶性の結石となります。カタバミにとっては身を守るための化学兵器です。

 カタバミ属の学名 Oxalisu   はシュウ酸(oxalic acid)から来ています。

 下の2枚の写真は都会の道ばたでよく見かけるカタバミです。続く4枚は遊歩道で見つけたカタバミの仲間たちです。イモカタバミやムラサキカタバミは南米が原産地で、遠来の客です。最後から一つ手前のカタバミにはシュウ酸由来のオキザリスが名前についています。

 オオキバナカタバミは都会の片隅に咲く草花14 で取り上げました。

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カタバミ(緑の葉)アカカタバミ(赤い葉)
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イモカタバミムラサキカタバミ
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オキザリス トリアングラシスオオキバナカタバミ

4.詩を一つ

いちりんの花をとって
その中を ごらんなさい
じっと よくみてごらんなさい

花の中に町がある
黄金(きん)にかがやく宮殿がある
人がいく道がある 牧場がある
みんな いいにおいの中で
愛のように ねむっている

ああ なんという美しさ
なんという平和な世界
大自然がつくりだした
こんな小さいものの中にも
みちみちている清らかさ

この花の けだかさを
生まれたままの美しさを
いつまでも 心の中にもって
花のように
私たちは生きよう

      村野四郎

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都会の片隅に咲く草花16(ケヤキ、ヒメツルソバ、タンポポの綿帽子、バラ)

(21/4/26 記)

1.ケヤキの新緑

 世田谷区保存樹木のケヤキは前にも触れました(日々雑感1)。今回は新緑のケヤキです(写真1)。この写真はわがマンションの4階から撮りました。高さは20mほどもあります。街なかにこれほどの大木があるのは珍しいことです。

写真1 新緑のケヤキと八重桜

 この大ケヤキのすぐそばまで行き、見上げたのが写真2です。青空をバックにした新緑は何とも美しく、生命力に溢れています。うらやましいぞ!元気を少し分けてくれないか、と老いたる私は叫びたくなります。

写真2 見上げた新緑の大ケヤキ

 写真3はケヤキの根元から幹を見上げた写真です。幹の根元は想像以上に太く、直径は1 m ほどあります。その威厳さに圧倒されます。

写真3 根元から見上げた大ケヤキ

2.ならんでいるのはうつくしい

 阿部嘉昭の詩をカニエ・ナハが読売新聞(2021/4/3)に紹介していました。

 ならんでいるのはうつくしい
 なにごとでもなにものでも
 この世というたったひとつを
 わけあいつつひとしく負うのは
 少なさのためによいことだ

 目の覚めるようなピンク色の丸い花が群をなして道路わきに咲いていました。ヒメツルソバです。道路の敷石と縁石の間のわずかな隙間を花たちは押し合い、へし合いです。普段は目立たない草花ですが、春の雨上がりに、このときとばかりに咲き誇っていました(写真4)。

 拡大してみると花はあたかも赤い金平糖のオンパレードです(写真5)。花期が過ぎると脱色して白い金平糖に変わります。

写真4 ヒメツルソバ(姫蔓蕎麦)
写真5 ヒメツルソバ 拡大図

3.タンポポの綿帽子

 黄色いタンポポの花は春のシンボルです。ひと月ほどたつと花は球状の綿毛で覆われます(写真6)。綿帽子と名付けられています。綿毛のところどころに棒状の茶色い種が顔を出しています。風が吹けば飛び出そうとしているところです。綿帽子の芯付近には茶色い種がぎっしり詰まっているのが見えます。

 綿帽子を袋に入れ数日置くと綿毛はバラバラになります(写真7)。茶色い種は100個以上あります。どの種も細い綱(サスペンションライン)により傘状の綿毛とつながっています。種は飛行機から飛び出した落下傘部隊の兵隊のように見えます。

 戦争を知らないタンポポがどうしてこのような落下傘構造を作り出したのか不思議です。進化のなせる業なのか、それとも神さまのなせる業なのか。

 落下傘付きの種は風に乗って遠くまで飛んでいきます。落下地点に恵まれた種だけが次世代を背負います。100個のうち幸運に恵まれるのはひとつあるかなしかです。遊歩道がタンポポで覆い尽くされることは無いからです。

写真6 タンポポの綿帽子 見事な球形です。種は綿帽子の中心にあり綿毛が外側を覆います。
写真7 綿毛の落下傘 落下傘部隊と
見まがうばかりです。種の長さは3㎜、
落下傘の全長は約15㎜。

<追記>

 ベランダのバラ(スクワイア、squire)が例年になく早く咲きました。喜寿のお祝いに家族から贈られた鉢植えのバラです。それから8年も経ちました。次のメッセージを添えてバラの写真を家族にメールしました。

「喜寿のお祝いにいただいたスクワイア、今年も大輪の花を付けました。来年もまたね、と絶世の美人に声をかけられた気分です。長生きしなくっちゃ。」

The Squire

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日々雑感13(21/ 3/23 記)

桜の花はなぜ白い

 今年の桜は例年になく早く満開となりました。写真1は自宅マンションの4階から撮った遊歩道の桜です(自由ヶ丘)。高い位置から眺める桜は一段と豪華です。輝くように白い、こぼれんばかりの花、花、花。自由が丘の遊歩道は最も華やいだ季節を迎えています。

写真1 4階から眺めた遊歩道の桜

 例年だと桜並木に沿ってぼんぼり提灯が吊り下げられますが、今年は一つもありません(写真2)。コロナ異変です。人通りは自粛気味。「少し寂しいが、これはこれでいいなぁ」とつぶやきながらの散歩です。

写真2 閑散とした遊歩道の桜並木 犬を連れ、杖を突いて散歩する白髪のお年寄り。(同じ爺さんですが私ではありません。)

 桜は枝の先の先までびっしりと花を付けますが、枝が垂れることはありません。ピンと空に向かっています(写真3)。花びらが軽いためです。花弁は白がベースで、淡いピンク色をおびています。

 淡白な色彩と花期の短かさはいかにも日本人好みです。

“願わくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃”  西 行                   

写真3 満開の大島さくら

 花びらの背景にあるサイエンスを少々。横浜市大に務めていたときに作成した市民セミナー用の資料を基にしています。

 そよ風に誘われて、花びらは満開の桜からひらひらと舞い散ります。水面に落ちれば浮かびます(写真4)。道端に落ち、人に踏まれれば透明になります(写真5)。

This image has an empty alt attribute; its file name is e794bbe5838f7sakura.jpgThis image has an empty alt attribute; its file name is e794bbe5838f8sakura.jpg
写真4 水面に浮かぶ花びら写真5 雨上がりのアスファルトに落ちた花びら
隣接する花びらは連らなります。なお、水面の左側には青空の反射が見られます。靴で踏まれた部分は透明になり、黒いアスファルトが透けて見えます。         

 桜の花びらが軽いこと、踏みつぶされると透明になることから、花びらには空気の小さな泡(気泡)の詰まっていることが推察されます。気泡の集まりが光を反射(乱散乱)すれば白く見えるはずです。

 泡の集まりが白く見えることは日常経験するところです。石鹸水を泡立てれば白く見え、ビールの泡も白です。

 白さと軽さを同時に実現するためには気泡以上の手段はありません。花びらの巧みにただ驚くばかりです。

 水面に浮かんだ花びらは写真4のように連なります。連なるのは界面張力の問題です。

 花びらの周りには水との界面(界線?)が存在します(図1の青い線)。界面がないときに比べ余分のエネルギーを必要とします(界面エネルギー)。二つの花びらが接触すればその部分の青線はなくなり(矢印の先にある図)、その分 界面エネルギーは減少します。花びらが繋がろうとする原動力です。

図1 界面エネルギーの節約と花筏の形成原理

  花びらが多数あると次から次へと連なり、水面を覆います(写真6)。

写真6 花筏  連なった花びらを花筏とは、抜群の美的センス!! ところどころにある空気の抜けた花びらは透明です。
写真5と同様の理由によります。

 空気のように軽い花びら、光の乱反射による白い花びら、界面張力による花筏、桜の美しさの背景にはこのようにサイエンスが機能しています。

追記:

 自由ヶ丘の遊歩道に1本だけ淡い緑色の花をつける桜があります。御衣黄桜(ギョイコウサクラ)です(写真7)。ソメイヨシノの後に咲く、遅咲きの桜です。開花したばかりは淡い緑色、徐々に黄色に変化し、やがて花びらの中心部が赤く染まります。

 古めかしい名前は、花びらの緑色が平安貴族の衣服(御衣)に見られる「萌黄色」(モエギイロ)に近いことによります。

写真7 御衣黄桜(ギョイコウサクラ) 去年の4月2日に撮った写真です。

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